今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
第7節
翌朝になった。希世子が離れの部屋にやって来て、襖を少しだけ開けて中を見ずに小さく声をかけた。
「安寿ちゃん、航志朗さんの具合はどう? 入ってもいいかしら」
希世子が耳をすますと安寿のか細い声が聞こえた。
「希世子さん……」
襖を静かに開けた希世子は、安寿が航志朗を抱きしめながら布団の中でぐったりとしていることに気がついた。驚いた希世子はあわてて言った。
「安寿ちゃん、大丈夫なの!」
安寿は気だるそうに起き上がった。希世子は安寿の額に手を当てた。
「あらまあ、安寿ちゃんも熱が出ちゃったんじゃないの」
「とにかくあとは全部私に任せて、安寿ちゃんも休みなさい。いいわね?」
「……はい。すいません、希世子さん」
「安寿ちゃん、謝らないの。私のことを北海道のおばあちゃんだと思って、甘えていいのよ」
「おばあちゃんだなんて。……お母さんです」
微かに目を潤ませた希世子は、安寿の脇の下に体温計をはさんだ。安寿の体温は、三十七度二分だった。希世子はほっとしたように安寿に微笑んだ。
「微熱だから、大丈夫ね」
航志朗が目を開けて、ぼんやりと安寿を見上げた。安寿は航志朗の額に手を当ててから深々とため息をついた。
「よかった。昨日の夜よりは熱が下がってる」
すぐに航志朗の熱を測ると安寿と同じ体温だった。
「あらあら。仲がいいこと」
肩をすくませて希世子が微笑んだ。
安寿と航志朗は二人並んでそれぞれの布団に横になった。
安寿のほうに顔を向けて、航志朗が心配そうに尋ねた。
「安寿、熱があるって大丈夫なのか?」
すかざず安寿も航志朗に尋ねた。
「航志朗さんこそ、大丈夫ですか?」
安寿と航志朗の額には小さな冷却シートが貼ってある。目尻にしわを寄せながら希世子が有無を言わさずに貼った。可笑しくなってふたりは顔を見合わせて笑った。
正午前にマスクをした恵が部屋に入って来て言った。
「ふたりとも、具合はどう?」
安寿と航志朗は顔を見合わせて苦笑いしてから同時に言った。
「もう大丈夫」
「もう大丈夫です」
感慨深げに恵が言った。
「ずっと前に、勇生くんのママの五人お子さんがいらっしゃる本間さんに聞いたんだけど、赤ちゃんが熱出した時に、ママがずっと抱っこしていると不思議と熱が下がるんだって。それでね、ママのほうは少し熱が上がるんだって。きっと赤ちゃんの熱がママに移ったのね。今のところ私はまだ経験していないんだけどね。ほら、敬仁はおっぱい飲んでいるでしょ。おっぱいって母親の免疫がたくさん含まれているからか敬仁ってすごく元気で、まだ一回しか熱出してないの」
それを聞いた航志朗は、安寿を愛おしそうに見つめて言った。
「そうか。安寿が俺の熱を下げてくれたんだな。ありがとう、安寿」
「違いますよ。だって、航志朗さんは私の赤ちゃんじゃないでしょ」
急に照れくさくなった安寿は仏頂面をした。ふたりの様子を見て、恵はマスクの下で大笑いした。
「安寿ちゃん、航志朗さんの具合はどう? 入ってもいいかしら」
希世子が耳をすますと安寿のか細い声が聞こえた。
「希世子さん……」
襖を静かに開けた希世子は、安寿が航志朗を抱きしめながら布団の中でぐったりとしていることに気がついた。驚いた希世子はあわてて言った。
「安寿ちゃん、大丈夫なの!」
安寿は気だるそうに起き上がった。希世子は安寿の額に手を当てた。
「あらまあ、安寿ちゃんも熱が出ちゃったんじゃないの」
「とにかくあとは全部私に任せて、安寿ちゃんも休みなさい。いいわね?」
「……はい。すいません、希世子さん」
「安寿ちゃん、謝らないの。私のことを北海道のおばあちゃんだと思って、甘えていいのよ」
「おばあちゃんだなんて。……お母さんです」
微かに目を潤ませた希世子は、安寿の脇の下に体温計をはさんだ。安寿の体温は、三十七度二分だった。希世子はほっとしたように安寿に微笑んだ。
「微熱だから、大丈夫ね」
航志朗が目を開けて、ぼんやりと安寿を見上げた。安寿は航志朗の額に手を当ててから深々とため息をついた。
「よかった。昨日の夜よりは熱が下がってる」
すぐに航志朗の熱を測ると安寿と同じ体温だった。
「あらあら。仲がいいこと」
肩をすくませて希世子が微笑んだ。
安寿と航志朗は二人並んでそれぞれの布団に横になった。
安寿のほうに顔を向けて、航志朗が心配そうに尋ねた。
「安寿、熱があるって大丈夫なのか?」
すかざず安寿も航志朗に尋ねた。
「航志朗さんこそ、大丈夫ですか?」
安寿と航志朗の額には小さな冷却シートが貼ってある。目尻にしわを寄せながら希世子が有無を言わさずに貼った。可笑しくなってふたりは顔を見合わせて笑った。
正午前にマスクをした恵が部屋に入って来て言った。
「ふたりとも、具合はどう?」
安寿と航志朗は顔を見合わせて苦笑いしてから同時に言った。
「もう大丈夫」
「もう大丈夫です」
感慨深げに恵が言った。
「ずっと前に、勇生くんのママの五人お子さんがいらっしゃる本間さんに聞いたんだけど、赤ちゃんが熱出した時に、ママがずっと抱っこしていると不思議と熱が下がるんだって。それでね、ママのほうは少し熱が上がるんだって。きっと赤ちゃんの熱がママに移ったのね。今のところ私はまだ経験していないんだけどね。ほら、敬仁はおっぱい飲んでいるでしょ。おっぱいって母親の免疫がたくさん含まれているからか敬仁ってすごく元気で、まだ一回しか熱出してないの」
それを聞いた航志朗は、安寿を愛おしそうに見つめて言った。
「そうか。安寿が俺の熱を下げてくれたんだな。ありがとう、安寿」
「違いますよ。だって、航志朗さんは私の赤ちゃんじゃないでしょ」
急に照れくさくなった安寿は仏頂面をした。ふたりの様子を見て、恵はマスクの下で大笑いした。