今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
南千歳駅に着くと、航志朗は安寿が予約していた特急北斗と北海道新幹線の座席をスマートフォンを使って取り直した。それから、航志朗はどこかに電話をかけた。英語でしばらく話してから、心配そうに見つめていた安寿に笑顔で言った。
「午後のソウルのアポイントメント、先方に連絡してあさってに延期してもらった」
「そうですか。ご迷惑をおかけしてしまって、本当にすいません」
申しわけなさそうに安寿は頭を下げた。
くすくす肩を震わせて笑いながら、航志朗は安寿の髪をなでた。
「大丈夫だよ、安寿。まったく問題ないから。ソウルの美術館のオーナーの鄭会長は、愛妻家で有名なんだ。俺が『妻が寂しがって、俺を離してくれない』って言ったら、すぐに『それは一大事だ! コーシ、午後のアポイントメントは即刻延期だ!』って言ってくれたよ」
下を向いて安寿は真っ赤になった。
それから、航志朗は伊藤にメールした。伊藤からはすぐに「承知しました」とひとことだけ返信が来た。
午前十時発の新函館北斗駅行きの特急北斗にふたりは乗車した。グリーン車の一番後ろの席だ。車両には誰も乗っていない。すぐに航志朗は安寿を抱き寄せてキスしようとした。あわてて安寿は航志朗の口を両手で押さえて言った。
「穂乃花さんのパンをいただきましょうよ!」
安寿は紙袋からメロンパンを取り出すと、無理やり航志朗の口に突っ込んだ。
メロンパンを半分にちぎって安寿に手渡してから、航志朗はひそかに頭のなかで計算した。
(東京駅に着くのは午後七時すぎか……。時間かかりすぎだろ! 飛行機なら羽田までたったの一時間四十分なのに)
航志朗は深いため息をついた。だが、航志朗は隣に座っておいしそうにメロンパンを食べている安寿を横目で見て胸を震わせた。
(やっと今夜、ついに彼女と……)
午後一時すぎに新函館北斗駅に着くと、安寿と航志朗は駅構内のカフェで昼食をとった。新鮮な帆立やイクラ、ウニがのった海鮮丼をお腹いっぱいに収めた。ジャージー牛乳の濃厚なソフトクリームもふたりで分け合って食べた。おいしそうにソフトクリームを舐める安寿の姿を見て、恵の話を思い出した航志朗は胸の奥が痛んだ。
駅の売店で安寿は土産の菓子折りをたくさん買い求めた。航志朗がカードで支払おうとすると安寿はそれを制止した。
「私、この旅行のために夏休みの前半に莉子ちゃんのおうちでアルバイトしたのに、ぜんぜんお金を使っていないんですよ。私が絶対に払います!」と言って、安寿は嬉々として財布を取り出すと現金で支払った。
あわてて航志朗は早口でまくしたてた。
「安寿、『菓匠はらだ』さんでバイトしていたのか!」
「はい。莉子ちゃんのお父さんやお兄さんたちやお店の皆さまには、大変お世話になりました。またアルバイトさせていただくつもりです」
また早口で航志朗は尋ねた。
「『お兄さんたち』って、匠くんの他にもいるのか!」
こともなげに安寿は笑顔で言った。
「はい。莉子ちゃんには銀行にお勤めされている上のお兄さんの和さんもいますよ。和さんにもとても優しくしていただきました」
むすっとして航志朗は菓子折りが入った大きな紙袋を乱暴に手に持った。
「午後のソウルのアポイントメント、先方に連絡してあさってに延期してもらった」
「そうですか。ご迷惑をおかけしてしまって、本当にすいません」
申しわけなさそうに安寿は頭を下げた。
くすくす肩を震わせて笑いながら、航志朗は安寿の髪をなでた。
「大丈夫だよ、安寿。まったく問題ないから。ソウルの美術館のオーナーの鄭会長は、愛妻家で有名なんだ。俺が『妻が寂しがって、俺を離してくれない』って言ったら、すぐに『それは一大事だ! コーシ、午後のアポイントメントは即刻延期だ!』って言ってくれたよ」
下を向いて安寿は真っ赤になった。
それから、航志朗は伊藤にメールした。伊藤からはすぐに「承知しました」とひとことだけ返信が来た。
午前十時発の新函館北斗駅行きの特急北斗にふたりは乗車した。グリーン車の一番後ろの席だ。車両には誰も乗っていない。すぐに航志朗は安寿を抱き寄せてキスしようとした。あわてて安寿は航志朗の口を両手で押さえて言った。
「穂乃花さんのパンをいただきましょうよ!」
安寿は紙袋からメロンパンを取り出すと、無理やり航志朗の口に突っ込んだ。
メロンパンを半分にちぎって安寿に手渡してから、航志朗はひそかに頭のなかで計算した。
(東京駅に着くのは午後七時すぎか……。時間かかりすぎだろ! 飛行機なら羽田までたったの一時間四十分なのに)
航志朗は深いため息をついた。だが、航志朗は隣に座っておいしそうにメロンパンを食べている安寿を横目で見て胸を震わせた。
(やっと今夜、ついに彼女と……)
午後一時すぎに新函館北斗駅に着くと、安寿と航志朗は駅構内のカフェで昼食をとった。新鮮な帆立やイクラ、ウニがのった海鮮丼をお腹いっぱいに収めた。ジャージー牛乳の濃厚なソフトクリームもふたりで分け合って食べた。おいしそうにソフトクリームを舐める安寿の姿を見て、恵の話を思い出した航志朗は胸の奥が痛んだ。
駅の売店で安寿は土産の菓子折りをたくさん買い求めた。航志朗がカードで支払おうとすると安寿はそれを制止した。
「私、この旅行のために夏休みの前半に莉子ちゃんのおうちでアルバイトしたのに、ぜんぜんお金を使っていないんですよ。私が絶対に払います!」と言って、安寿は嬉々として財布を取り出すと現金で支払った。
あわてて航志朗は早口でまくしたてた。
「安寿、『菓匠はらだ』さんでバイトしていたのか!」
「はい。莉子ちゃんのお父さんやお兄さんたちやお店の皆さまには、大変お世話になりました。またアルバイトさせていただくつもりです」
また早口で航志朗は尋ねた。
「『お兄さんたち』って、匠くんの他にもいるのか!」
こともなげに安寿は笑顔で言った。
「はい。莉子ちゃんには銀行にお勤めされている上のお兄さんの和さんもいますよ。和さんにもとても優しくしていただきました」
むすっとして航志朗は菓子折りが入った大きな紙袋を乱暴に手に持った。