今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
さっそく安寿は有り物で夕食の準備をし始めようとした。あわてて航志朗が安寿の肩に手を置いて言った。
「安寿、時短で簡単につくろう。ドイツ式に『コールドミール』で」
航志朗は冷凍庫からスモークサーモンを取って流水で解凍した。冷蔵庫からモツァレラチーズを取り出してケーキナイフでスライスする。冷凍野菜のインゲンとカボチャとブロッコリーをレンジアップして塩とオリーブオイルをかけた。豆乳をレンジで温めて粉末のコーンスープを混ぜる。それから、長期保存のライ麦パンをパントリーから持って来た。立派な夕食が十分でできあがった。あまりの手際のよさに安寿は手が出せなかった。
心から安寿は感心した。
(本当に、航志朗さんってなんでもできるんだ……)
北欧デザインのスタンドライトやテーブルランプをつけて、LDKのダイニングテーブルに白いプレートとグラスを並べた。シックで温かい雰囲気の食卓が整った。
ふと気づくと窓の外が深いブルーに染まっている。吸い寄せられるように安寿はバルコニーに出た。辺り一面が青い光に包まれている。航志朗もバルコニーにやって来て、後ろから安寿を抱きしめて言った。
「ブルーモーメントだな。安寿、君と一緒に見られて嬉しいよ」
「きれい……。とても、とても」
「もちろん君のほうがきれいだけど……」
航志朗の定番のセリフにくすっと安寿は笑った。
安寿の頬に軽くキスして航志朗が言った。
「少し早いけど、夕食にしようか。食べたら風呂に入って、……ベッドに直行だ、安寿」
安寿は真っ赤な顔をしてうつむいた。
「月夜の海を見ながら、ゆっくり安寿と……」とバスタブに浸かった航志朗はつぶやいて顔を赤らめた。いそいそと航志朗はバスルームから出て、冷蔵庫の中から冷えたミネラルウォーターのボトルを持って階段を上った。航志朗はバスタオルを腰に巻いただけだ。二階のベッドルームには、先に風呂に入った安寿が待っている。三か月ぶりの安寿との夜だ。身体じゅうをうずかせて、航志朗はドアを開けた。部屋にはライトがついていない。月明かりを頼りに暗い部屋の中に努めて静かに入る。バルコニーで海を眺めているかと思った安寿は、意外にももうベッドの上に横になっていた。航志朗の胸の鼓動が早まっていく。背中を向けた安寿の横に座って、その艶やかな長い黒髪に手を触れた。身を寄せると安寿の甘い匂いがする。たまらずに「安寿……」とささやいて、航志朗は安寿に唇を重ねようとした。
「ん?」
航志朗は気づいた。安寿は目を閉じている。唇をうっすらと開いてまったく微動だにせずにぐっすりと深く眠っていた。すうすうと気持ちよさそうな寝息が聞こえる。もはや大人の女性ではなく、遊び疲れて眠ってしまった小さな女の子のようだ。肩をがっくりと落として、航志朗は深いため息をついた。
「おやすみ、安寿……」
航志朗はミネラルウォーターを飲んでからタオルケットを引っぱり上げて安寿と自分に掛けると、安寿の身体にそっと手を回して目を閉じた。
穏やかな波の音がふたりを包んだ。九州での一日目の夜が静かに過ぎていった。
「安寿、時短で簡単につくろう。ドイツ式に『コールドミール』で」
航志朗は冷凍庫からスモークサーモンを取って流水で解凍した。冷蔵庫からモツァレラチーズを取り出してケーキナイフでスライスする。冷凍野菜のインゲンとカボチャとブロッコリーをレンジアップして塩とオリーブオイルをかけた。豆乳をレンジで温めて粉末のコーンスープを混ぜる。それから、長期保存のライ麦パンをパントリーから持って来た。立派な夕食が十分でできあがった。あまりの手際のよさに安寿は手が出せなかった。
心から安寿は感心した。
(本当に、航志朗さんってなんでもできるんだ……)
北欧デザインのスタンドライトやテーブルランプをつけて、LDKのダイニングテーブルに白いプレートとグラスを並べた。シックで温かい雰囲気の食卓が整った。
ふと気づくと窓の外が深いブルーに染まっている。吸い寄せられるように安寿はバルコニーに出た。辺り一面が青い光に包まれている。航志朗もバルコニーにやって来て、後ろから安寿を抱きしめて言った。
「ブルーモーメントだな。安寿、君と一緒に見られて嬉しいよ」
「きれい……。とても、とても」
「もちろん君のほうがきれいだけど……」
航志朗の定番のセリフにくすっと安寿は笑った。
安寿の頬に軽くキスして航志朗が言った。
「少し早いけど、夕食にしようか。食べたら風呂に入って、……ベッドに直行だ、安寿」
安寿は真っ赤な顔をしてうつむいた。
「月夜の海を見ながら、ゆっくり安寿と……」とバスタブに浸かった航志朗はつぶやいて顔を赤らめた。いそいそと航志朗はバスルームから出て、冷蔵庫の中から冷えたミネラルウォーターのボトルを持って階段を上った。航志朗はバスタオルを腰に巻いただけだ。二階のベッドルームには、先に風呂に入った安寿が待っている。三か月ぶりの安寿との夜だ。身体じゅうをうずかせて、航志朗はドアを開けた。部屋にはライトがついていない。月明かりを頼りに暗い部屋の中に努めて静かに入る。バルコニーで海を眺めているかと思った安寿は、意外にももうベッドの上に横になっていた。航志朗の胸の鼓動が早まっていく。背中を向けた安寿の横に座って、その艶やかな長い黒髪に手を触れた。身を寄せると安寿の甘い匂いがする。たまらずに「安寿……」とささやいて、航志朗は安寿に唇を重ねようとした。
「ん?」
航志朗は気づいた。安寿は目を閉じている。唇をうっすらと開いてまったく微動だにせずにぐっすりと深く眠っていた。すうすうと気持ちよさそうな寝息が聞こえる。もはや大人の女性ではなく、遊び疲れて眠ってしまった小さな女の子のようだ。肩をがっくりと落として、航志朗は深いため息をついた。
「おやすみ、安寿……」
航志朗はミネラルウォーターを飲んでからタオルケットを引っぱり上げて安寿と自分に掛けると、安寿の身体にそっと手を回して目を閉じた。
穏やかな波の音がふたりを包んだ。九州での一日目の夜が静かに過ぎていった。