今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
次の日の朝、風がうなる音を聞いて航志朗は目を覚ました。隣では安寿が仰向けになって眠っている。
「安寿……」
航志朗は無垢そのものの安寿の寝顔をたまらない気持ちで見つめていた。外は風が強くなってきていて部屋の中は薄暗い。スマートフォンを取って時刻を確認すると八時を過ぎていた。航志朗は静かにベッドルームを出て行き階下に降りた。
LDKではすでに着替えた容がスマートフォンを熱心に操作していた。布団は部屋のかたすみにきちんとたたまれて置いてあり、昨夜ふたりで飲んだ後片づけも済んでいた。容は航志朗に気づくと興奮ぎみに報告した。
「航志朗さん、おはようございます。今夜、ここに大型の台風が直撃しますよ! 九州離発着の飛行機はもう全便欠航になりました!」
まったくその情報を気にも留めずに航志朗がのんびりとした口調で言った。
「そうか。まあ、もう一泊していったらいいだろ、容?」
「はあ、お世話になります……」
航志朗は着替えるとキッチンに立って朝食をつくり始めた。焼きあがったフレンチトーストを三枚のプレートに並べて、コーヒーと一緒にダイニングテーブルに運んだ。
「安寿さん、まだ寝ていらっしゃるんですか?」
航志朗は梨をむきながら黙ってうなずいた。
ハチミツをたっぷりかけた熱々のフレンチトーストをほおばりながら容が言った。
「航志朗さんて、料理するんですね」
「まあ、ひとり暮らしが長いからな。容は料理しないのか?」
「あー、僕、炊飯器のスイッチさえも押したことないですよ」
「はあ? なんだよそれ……」
コーヒーカップを持って立ち上がると航志朗は窓辺に行った。ダークグレイの重たい雲が海を暗く染めている。刻一刻と視界は悪くなっているようだ。強風が音を立てて樹々を揺らしている。航志朗はゆっくりとコーヒーを啜りながら思った。
(台風が来ているのか。それよりも、安寿、まだ寝ているのか。ああ、彼女、生理中は眠くなるって言っていたな。そっとしておくか)
その時、安寿は目覚めた。隣に航志朗がいない。そして、部屋の中は暗い。急に心細くなった安寿はあわてて起き上がると窓の外を見に行った。
(台風が来ているんだ……)
なぜか安寿の心のなかにもざわざわと暗雲が広がっていく。
「……航志朗さん!」
思わず安寿は航志朗の名前を口にするとパジャマのままでベッドルームを出て行った。
ぱたぱたと階段を下りてくる音が聞こえてきた。航志朗と容はそれぞれ眺めていたスマートフォンの画面から顔を上げた。
安寿は航志朗の姿を目に入れると小走りで航志朗のそばによってその腕を強くつかんだ。容は驚いたように安寿を見つめてから、すぐに頬をゆるめて視線を外した。
安寿の顔をのぞき込んで航志朗が言った。
「おはよう、安寿。どうした?」
安寿は容がいることに気づくと赤くなって下を向いた。航志朗はふっと笑みを浮かべて安寿の頭を優しくぽんぽんと叩いた。
「台風が怖いのか、安寿? 大丈夫だよ。俺も容も君と一緒にいるだろ」
恥ずかしそうに安寿が容を見ると、にっこりして容はうなずいた。
フライパンで航志朗に温め直してもらったフレンチトーストを安寿は黙々と口に入れた。やっとお腹が空いていたことに気づいた。残しておいてくれた梨も食べた。常温になったから大丈夫だろうと航志朗の許可が下りたのだ。
安寿が窓の外を見て言った。
「風が強くなってきましたね……」
「ああ、そうだな」
航志朗も薄暗い窓の外を見やった。
「安寿……」
航志朗は無垢そのものの安寿の寝顔をたまらない気持ちで見つめていた。外は風が強くなってきていて部屋の中は薄暗い。スマートフォンを取って時刻を確認すると八時を過ぎていた。航志朗は静かにベッドルームを出て行き階下に降りた。
LDKではすでに着替えた容がスマートフォンを熱心に操作していた。布団は部屋のかたすみにきちんとたたまれて置いてあり、昨夜ふたりで飲んだ後片づけも済んでいた。容は航志朗に気づくと興奮ぎみに報告した。
「航志朗さん、おはようございます。今夜、ここに大型の台風が直撃しますよ! 九州離発着の飛行機はもう全便欠航になりました!」
まったくその情報を気にも留めずに航志朗がのんびりとした口調で言った。
「そうか。まあ、もう一泊していったらいいだろ、容?」
「はあ、お世話になります……」
航志朗は着替えるとキッチンに立って朝食をつくり始めた。焼きあがったフレンチトーストを三枚のプレートに並べて、コーヒーと一緒にダイニングテーブルに運んだ。
「安寿さん、まだ寝ていらっしゃるんですか?」
航志朗は梨をむきながら黙ってうなずいた。
ハチミツをたっぷりかけた熱々のフレンチトーストをほおばりながら容が言った。
「航志朗さんて、料理するんですね」
「まあ、ひとり暮らしが長いからな。容は料理しないのか?」
「あー、僕、炊飯器のスイッチさえも押したことないですよ」
「はあ? なんだよそれ……」
コーヒーカップを持って立ち上がると航志朗は窓辺に行った。ダークグレイの重たい雲が海を暗く染めている。刻一刻と視界は悪くなっているようだ。強風が音を立てて樹々を揺らしている。航志朗はゆっくりとコーヒーを啜りながら思った。
(台風が来ているのか。それよりも、安寿、まだ寝ているのか。ああ、彼女、生理中は眠くなるって言っていたな。そっとしておくか)
その時、安寿は目覚めた。隣に航志朗がいない。そして、部屋の中は暗い。急に心細くなった安寿はあわてて起き上がると窓の外を見に行った。
(台風が来ているんだ……)
なぜか安寿の心のなかにもざわざわと暗雲が広がっていく。
「……航志朗さん!」
思わず安寿は航志朗の名前を口にするとパジャマのままでベッドルームを出て行った。
ぱたぱたと階段を下りてくる音が聞こえてきた。航志朗と容はそれぞれ眺めていたスマートフォンの画面から顔を上げた。
安寿は航志朗の姿を目に入れると小走りで航志朗のそばによってその腕を強くつかんだ。容は驚いたように安寿を見つめてから、すぐに頬をゆるめて視線を外した。
安寿の顔をのぞき込んで航志朗が言った。
「おはよう、安寿。どうした?」
安寿は容がいることに気づくと赤くなって下を向いた。航志朗はふっと笑みを浮かべて安寿の頭を優しくぽんぽんと叩いた。
「台風が怖いのか、安寿? 大丈夫だよ。俺も容も君と一緒にいるだろ」
恥ずかしそうに安寿が容を見ると、にっこりして容はうなずいた。
フライパンで航志朗に温め直してもらったフレンチトーストを安寿は黙々と口に入れた。やっとお腹が空いていたことに気づいた。残しておいてくれた梨も食べた。常温になったから大丈夫だろうと航志朗の許可が下りたのだ。
安寿が窓の外を見て言った。
「風が強くなってきましたね……」
「ああ、そうだな」
航志朗も薄暗い窓の外を見やった。