今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
正午まで航志朗と容は手分けして別荘中の掃除をしたり洗濯乾燥機をかけたりしていた。安寿も手伝おうとしたが、ふたりに断られた。
(もう。私、元気なのに……)
軽いため息をついてソファに座ると、また安寿は眠り込んでしまった。LDKに戻って来た容が気がついて、安寿にそっとタオルケットをかけた。容は無防備な安寿の寝顔を見て思った。
(ルナは元気でいるかな……)
九条ルナは父親が違う容の妹だ。十一歳年の離れた妹は母と一緒に暮らしている。母と妹とはしばらく会っていない。
昼食に航志朗はふんだんにウニを使ったシーフードパスタをつくった。パスタがゆであがる頃に安寿は目を覚ました。ダイニングテーブルにプレートを運ぶと、航志朗は安寿の目の前に立った。まだ眠たげな目をして安寿は航志朗を見上げた。航志朗はくすっと笑って言った。
「安寿、グッドタイミングで起きたな。昼食にしようか」
返事をする代わりに安寿は目をしばたかせた。
三人は手を合わせてパスタを食べ始めた。顔をほころばせて容が言った。
「おいしいです、航志朗さん! 僕も料理に挑戦してみようかな。驚いて祖母が腰を抜かさないといいですが」
楽しそうに航志朗は笑ってから言った。
「おいしいのは食材が新鮮だからだよ。実は、この別荘のオーナーが毎日地元の食材を届けてくれるんだ」
「へえー、それはいいですね」
くるくるとフォークでパスタをからませながら航志朗が言った。
「容なら知っているだろ? ここのオーナーは、日本画家の古閑ルリさんだよ」
目を大きく見開いて容は驚いた。
「ええっ? ホントですか! あの古閑家の。うちの昔からの顧客ですよ! あ、これは内密にしてください。祖母に顧客の情報は他言するなって、常々注意されているんで」
「そうか。彼女の妹さんとたまたま仕事先で知り合ったんだ」
ふと安寿が思い出して航志朗に尋ねた。
「航志朗さん。今日はもう五嶋さんはいらっしゃったんですか?」
「そういえば、まだだな……」
その時、航志朗のスマートフォンが鳴った。その五嶋本人からだった。しばらく航志朗は五嶋の話に耳を傾けてからうなずいて言った。
「わかりました。これから三人でうかがいますので、よろしくお願いいたします」
スマートフォンをテーブルに置くと、安寿と容に向かって航志朗は困った顔で言った。
「ルリさんが特別警報級の台風が心配だから、今夜は古閑邸に泊まれってさ。準備が出来次第、古閑家に行くことになった」
安寿と容は顔を見合わせた。
窓の外はずっと風がうなり声をあげている。顔をしかめた安寿に航志朗が言った。
「仕方ないな、この別荘は海に面しているから。安寿、準備しよう」
安寿はうなずくと着替えと身の回りの物を航志朗の着替えと一緒に彼のブリーフケースに詰めた。少し安寿は迷ったが、濡れないようにフリーザーバッグに入れてから、瑠璃色の天然岩絵具が入ったガラス瓶も黒革のショルダーバッグの中に収めた。
(もう。私、元気なのに……)
軽いため息をついてソファに座ると、また安寿は眠り込んでしまった。LDKに戻って来た容が気がついて、安寿にそっとタオルケットをかけた。容は無防備な安寿の寝顔を見て思った。
(ルナは元気でいるかな……)
九条ルナは父親が違う容の妹だ。十一歳年の離れた妹は母と一緒に暮らしている。母と妹とはしばらく会っていない。
昼食に航志朗はふんだんにウニを使ったシーフードパスタをつくった。パスタがゆであがる頃に安寿は目を覚ました。ダイニングテーブルにプレートを運ぶと、航志朗は安寿の目の前に立った。まだ眠たげな目をして安寿は航志朗を見上げた。航志朗はくすっと笑って言った。
「安寿、グッドタイミングで起きたな。昼食にしようか」
返事をする代わりに安寿は目をしばたかせた。
三人は手を合わせてパスタを食べ始めた。顔をほころばせて容が言った。
「おいしいです、航志朗さん! 僕も料理に挑戦してみようかな。驚いて祖母が腰を抜かさないといいですが」
楽しそうに航志朗は笑ってから言った。
「おいしいのは食材が新鮮だからだよ。実は、この別荘のオーナーが毎日地元の食材を届けてくれるんだ」
「へえー、それはいいですね」
くるくるとフォークでパスタをからませながら航志朗が言った。
「容なら知っているだろ? ここのオーナーは、日本画家の古閑ルリさんだよ」
目を大きく見開いて容は驚いた。
「ええっ? ホントですか! あの古閑家の。うちの昔からの顧客ですよ! あ、これは内密にしてください。祖母に顧客の情報は他言するなって、常々注意されているんで」
「そうか。彼女の妹さんとたまたま仕事先で知り合ったんだ」
ふと安寿が思い出して航志朗に尋ねた。
「航志朗さん。今日はもう五嶋さんはいらっしゃったんですか?」
「そういえば、まだだな……」
その時、航志朗のスマートフォンが鳴った。その五嶋本人からだった。しばらく航志朗は五嶋の話に耳を傾けてからうなずいて言った。
「わかりました。これから三人でうかがいますので、よろしくお願いいたします」
スマートフォンをテーブルに置くと、安寿と容に向かって航志朗は困った顔で言った。
「ルリさんが特別警報級の台風が心配だから、今夜は古閑邸に泊まれってさ。準備が出来次第、古閑家に行くことになった」
安寿と容は顔を見合わせた。
窓の外はずっと風がうなり声をあげている。顔をしかめた安寿に航志朗が言った。
「仕方ないな、この別荘は海に面しているから。安寿、準備しよう」
安寿はうなずくと着替えと身の回りの物を航志朗の着替えと一緒に彼のブリーフケースに詰めた。少し安寿は迷ったが、濡れないようにフリーザーバッグに入れてから、瑠璃色の天然岩絵具が入ったガラス瓶も黒革のショルダーバッグの中に収めた。