今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
少し前にひと騒動があったことを知らずに、航志朗が先に目を覚ました。
(ん? あのまま眠ってしまったのか……)
航志朗の腕の中に安寿がぴったりと身を寄せて眠っている。安寿の腕は航志朗の身体にしっかりと回されている。苦しげな表情をして顔をしかめた航志朗は安寿の寝顔を見つめた。
(安寿、君が愛おしくてたまらない。俺は、今、思いきり君を抱きたい)
どうしても反応してしまう身体を持て余し、航志朗は腰を動かして身動きした。
安寿が目を開けた。安寿と航志朗は見つめ合った。安寿の瞳に朝日が映り込むと、ゆっくりと安寿は航志朗に唇を重ねた。目を細めて航志朗は安寿をそのまま受け入れた。思わず航志朗は安寿の背中に回した腕の力を強めた。だが、すぐに安寿は唇を離して身を引くと周囲を見回してからつぶやいた。
「あれ? 私、どうしてサロンにいるの」
「覚えていないのか?」
安寿はうなずくとソファから立ち上がって言った。
「私、大学に行く準備をします」
すぐに背を向けて安寿はサロンから出て行った。一人で残された航志朗は髪をかきあげて深いため息をついた。
航志朗は客間に行って着替えた。今日も安寿と一緒に大学に行くつもりだ。ブリーフケースをサロンに持って来てノートパソコンを中に収めた。そこへ身支度を整えた安寿が小走りでやって来た。
「私、今日は午後も実技があるので、帰宅は夕方以降になります」
そう事務的に言うと安寿は食事室に向かった。
食事室では咲がいつものように朝食をダイニングテーブルに並べていた。安寿は咲に朝のあいさつをした。
「おはようございます、咲さん」
「お、おはようございます、安寿さま」
咲は顔を赤らめて下を向いた。いつもと違う咲の様子がなんとなく気になったが、気を取り直して安寿は台所に行って炊飯器のふたを開けて昼食用のおにぎりをつくった。いちおう航志朗の分も握っておいた。それから、弁当箱に咲が作り置きしておいてくれた色とりどりの野菜が入った筑前煮とほうれん草のおひたしとミニトマト詰めた。
明るい日差しが差し込む食事室で、安寿と航志朗は一緒に朝食をとった。ダイニングテーブルにはだし巻き卵とカボチャの煮物とデザートのメロンが並んでいる。咲お手製のふりかけをかけたご飯を食べながら航志朗が言った。
「安寿、もちろん今日も君と一緒に大学に行く」
味噌汁の椀を置いてから困惑ぎみに安寿が言った。
「もう大丈夫ですよ、航志朗さん」
「いや、君のことが心配だ。一緒に行く」
「本当にもう大丈夫ですから。航志朗さんは私に構わずに、ご自分の時間を自由に過ごしてください」
安寿が言った「自由」という言葉に反応して、航志朗の胸が一瞬痛みをともなった低い音を刻んだ。急に安寿に突き放された感じがして、航志朗は顔をしかめた。
「だめだ。俺も一緒に行く」
「でも……」
「あと二日間しか俺たちは一緒にいられない。だから、一分一秒でも離れたくない。俺は君とずっと一緒にいたい」
何も答えられずに安寿はうつむいた。
(もう彼に甘えたくない。いずれ私は一人で生きていかなくちゃいけないんだから)
(ん? あのまま眠ってしまったのか……)
航志朗の腕の中に安寿がぴったりと身を寄せて眠っている。安寿の腕は航志朗の身体にしっかりと回されている。苦しげな表情をして顔をしかめた航志朗は安寿の寝顔を見つめた。
(安寿、君が愛おしくてたまらない。俺は、今、思いきり君を抱きたい)
どうしても反応してしまう身体を持て余し、航志朗は腰を動かして身動きした。
安寿が目を開けた。安寿と航志朗は見つめ合った。安寿の瞳に朝日が映り込むと、ゆっくりと安寿は航志朗に唇を重ねた。目を細めて航志朗は安寿をそのまま受け入れた。思わず航志朗は安寿の背中に回した腕の力を強めた。だが、すぐに安寿は唇を離して身を引くと周囲を見回してからつぶやいた。
「あれ? 私、どうしてサロンにいるの」
「覚えていないのか?」
安寿はうなずくとソファから立ち上がって言った。
「私、大学に行く準備をします」
すぐに背を向けて安寿はサロンから出て行った。一人で残された航志朗は髪をかきあげて深いため息をついた。
航志朗は客間に行って着替えた。今日も安寿と一緒に大学に行くつもりだ。ブリーフケースをサロンに持って来てノートパソコンを中に収めた。そこへ身支度を整えた安寿が小走りでやって来た。
「私、今日は午後も実技があるので、帰宅は夕方以降になります」
そう事務的に言うと安寿は食事室に向かった。
食事室では咲がいつものように朝食をダイニングテーブルに並べていた。安寿は咲に朝のあいさつをした。
「おはようございます、咲さん」
「お、おはようございます、安寿さま」
咲は顔を赤らめて下を向いた。いつもと違う咲の様子がなんとなく気になったが、気を取り直して安寿は台所に行って炊飯器のふたを開けて昼食用のおにぎりをつくった。いちおう航志朗の分も握っておいた。それから、弁当箱に咲が作り置きしておいてくれた色とりどりの野菜が入った筑前煮とほうれん草のおひたしとミニトマト詰めた。
明るい日差しが差し込む食事室で、安寿と航志朗は一緒に朝食をとった。ダイニングテーブルにはだし巻き卵とカボチャの煮物とデザートのメロンが並んでいる。咲お手製のふりかけをかけたご飯を食べながら航志朗が言った。
「安寿、もちろん今日も君と一緒に大学に行く」
味噌汁の椀を置いてから困惑ぎみに安寿が言った。
「もう大丈夫ですよ、航志朗さん」
「いや、君のことが心配だ。一緒に行く」
「本当にもう大丈夫ですから。航志朗さんは私に構わずに、ご自分の時間を自由に過ごしてください」
安寿が言った「自由」という言葉に反応して、航志朗の胸が一瞬痛みをともなった低い音を刻んだ。急に安寿に突き放された感じがして、航志朗は顔をしかめた。
「だめだ。俺も一緒に行く」
「でも……」
「あと二日間しか俺たちは一緒にいられない。だから、一分一秒でも離れたくない。俺は君とずっと一緒にいたい」
何も答えられずに安寿はうつむいた。
(もう彼に甘えたくない。いずれ私は一人で生きていかなくちゃいけないんだから)