今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
その時、航志朗はパリへと向かう飛行機の中で頭を抱えていた。成田空港を出発してすでに長い時間が経っている。目の前の無機質なモニターの数字を見ると、飛行機は時速八百六十五キロメートルで航行している。安寿との距離は急速に離れて行く一方だ。
ライトブラウンの髪を傾けて男のキャビンアテンダントがつたない日本語で航志朗に声をかけた。
「お客さま、何かお飲み物でもお持ちいたしましょうか?」
あきらかに客の体調を遠回しに確認している。苦笑いしながら、航志朗はフランス語で軽く言った。
「ありがとう。デカフェをお願いします」
キャビンアテンダントはトリュフチョコレートも一緒に添えて持って来た。航志朗は礼を言うと、一粒つまんで口に入れた。その口の中でとろける甘い味に航志朗はたまらなく安寿とのキスを思い出す。それと同時に、とてつもない後悔が航志朗に襲ってきた。
(俺はあんなに弱っている安寿を一人で置いてきてよかったのか。何もかも放り出して、彼女のそばにいるべきだったんじゃないか……)
すでに窓の外は真っ暗な闇の中だ。身動きできないやるせなさに、航志朗はデカフェを一気に喉に流し込んだ。黒い液体が身体の中に染み渡るのを感じて、一瞬、航志朗は吐き気を覚えた。航志朗の脳裏に黒川家で素肌を真っ黒にさせた安寿の姿がまざまざと浮かんだ。すぐにコールボタンを押して、先ほどのキャビンアテンダントにミネラルウォーターを頼んだ。
胸の内で航志朗はつぶやいた。
(これからコーヒーが飲めなくなりそうだな。……安寿みたいに)
ライトブラウンの髪を傾けて男のキャビンアテンダントがつたない日本語で航志朗に声をかけた。
「お客さま、何かお飲み物でもお持ちいたしましょうか?」
あきらかに客の体調を遠回しに確認している。苦笑いしながら、航志朗はフランス語で軽く言った。
「ありがとう。デカフェをお願いします」
キャビンアテンダントはトリュフチョコレートも一緒に添えて持って来た。航志朗は礼を言うと、一粒つまんで口に入れた。その口の中でとろける甘い味に航志朗はたまらなく安寿とのキスを思い出す。それと同時に、とてつもない後悔が航志朗に襲ってきた。
(俺はあんなに弱っている安寿を一人で置いてきてよかったのか。何もかも放り出して、彼女のそばにいるべきだったんじゃないか……)
すでに窓の外は真っ暗な闇の中だ。身動きできないやるせなさに、航志朗はデカフェを一気に喉に流し込んだ。黒い液体が身体の中に染み渡るのを感じて、一瞬、航志朗は吐き気を覚えた。航志朗の脳裏に黒川家で素肌を真っ黒にさせた安寿の姿がまざまざと浮かんだ。すぐにコールボタンを押して、先ほどのキャビンアテンダントにミネラルウォーターを頼んだ。
胸の内で航志朗はつぶやいた。
(これからコーヒーが飲めなくなりそうだな。……安寿みたいに)