今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
階段を駆け上がって安寿はベッドルームに向かった。ドアを開けるとベッドの上で航志朗が布団の中に丸くなっているのが見えた。
「安寿、ずいぶんと早かったな。飛行機に乗って来たのか?」
声は聞こえるが航志朗の姿は見えない。
安寿は生真面目に答えた。
「違いますよ。走って来たんです」
布団の中からくすくす笑う航志朗のくぐもった笑い声が聞こえてきた。突然、ひょっこりと航志朗の右手の手のひらが布団の中から出てきた。
「早くおいで、安寿」
ゆっくりと安寿はベッドに近づいて航志朗の手にそっと自分の右手を重ねた。航志朗は安寿の手を強く握ると引っぱって、安寿を布団の中に引きずり込んだ。温かい布団の中で航志朗にきつく抱きしめられる。
「温かいだろ、安寿」
航志朗の腕の中で安寿はうなずいた。
「君が長風呂をしている間に、先に布団に入って温めておいたよ」
安寿は航志朗の胸に顔をうずめて思った。
(この布団は航志朗さんの体温で温められたんだ。本当に温かい。もうこの布団から出たくない。彼のこの腕の中からも)
航志朗の背中に腕を回して安寿はきつくしがみついた。航志朗も安寿を抱きしめる力を強めて言った。
「やっとまた君をつかまえた。もう俺は君を離さない、安寿」
その時、安寿は航志朗に言いたかった。「私を離さないで、航志朗さん!」と大声で叫びたかった。でも、その本当の気持ちを口に出せなかった。ただ安寿は航志朗の身体にしがみつくことしかできなかった。充分すぎるほど安寿はわかっている。パジャマの上から抱き合うだけでは全然足りないと。身体の奥はどんどん熱を帯びてくる、もうどうしようもないくらいに。
だが、安寿は自分の本当の気持ちもわきあがってくる身体の欲求も頭で押さえつけた。航志朗はパジャマの上から身体を密着させて誘うように触れてくるが、安寿はその手も押さえつけた。それでも、航志朗は唇を押しつけて深くキスしてくるが、安寿は首を振って離した。
「航志朗さん、ごめんなさい。私、眠いの」
そう言って安寿は目を閉じた。もちろんそれはうそだ。目を閉じて静止していても、全身で航志朗の身体を感じている。
思いもよらない安寿の拒絶の姿勢に、息を荒げていた航志朗は我に返って胸の奥をかたく凍らせた。
(俺はなんてことをしてしまったんだ。まだ安寿は身も心も傷ついているのに)
あせった様子で身体を離すと航志朗は小声でつぶやいた。
「……ごめん。おやすみ、安寿」
安寿と航志朗は一つの布団の中で少し離れて目を閉じた。ふたりともなかなか寝つけない。安寿は寝返りをうって航志朗に背中を向けた。その気配に目を開けた航志朗は安寿の背中を見つめた。その苦しげな視線を安寿は痛いほど感じる。
本当は、航志朗の温かい身体を感じながら眠りたい。こんなに近くにいるのだから。でも、それはやがて来る別離の時を思うとできなかった。
(もう、私、少しずつ彼から離れていかなくちゃ。その時が来たら、つらくならないように)
安寿は身を縮めて自分で自分を抱きしめた。航志朗が温めた彼の匂いがする布団の中で、背中に心から愛するひとの存在を感じながら。
「安寿、ずいぶんと早かったな。飛行機に乗って来たのか?」
声は聞こえるが航志朗の姿は見えない。
安寿は生真面目に答えた。
「違いますよ。走って来たんです」
布団の中からくすくす笑う航志朗のくぐもった笑い声が聞こえてきた。突然、ひょっこりと航志朗の右手の手のひらが布団の中から出てきた。
「早くおいで、安寿」
ゆっくりと安寿はベッドに近づいて航志朗の手にそっと自分の右手を重ねた。航志朗は安寿の手を強く握ると引っぱって、安寿を布団の中に引きずり込んだ。温かい布団の中で航志朗にきつく抱きしめられる。
「温かいだろ、安寿」
航志朗の腕の中で安寿はうなずいた。
「君が長風呂をしている間に、先に布団に入って温めておいたよ」
安寿は航志朗の胸に顔をうずめて思った。
(この布団は航志朗さんの体温で温められたんだ。本当に温かい。もうこの布団から出たくない。彼のこの腕の中からも)
航志朗の背中に腕を回して安寿はきつくしがみついた。航志朗も安寿を抱きしめる力を強めて言った。
「やっとまた君をつかまえた。もう俺は君を離さない、安寿」
その時、安寿は航志朗に言いたかった。「私を離さないで、航志朗さん!」と大声で叫びたかった。でも、その本当の気持ちを口に出せなかった。ただ安寿は航志朗の身体にしがみつくことしかできなかった。充分すぎるほど安寿はわかっている。パジャマの上から抱き合うだけでは全然足りないと。身体の奥はどんどん熱を帯びてくる、もうどうしようもないくらいに。
だが、安寿は自分の本当の気持ちもわきあがってくる身体の欲求も頭で押さえつけた。航志朗はパジャマの上から身体を密着させて誘うように触れてくるが、安寿はその手も押さえつけた。それでも、航志朗は唇を押しつけて深くキスしてくるが、安寿は首を振って離した。
「航志朗さん、ごめんなさい。私、眠いの」
そう言って安寿は目を閉じた。もちろんそれはうそだ。目を閉じて静止していても、全身で航志朗の身体を感じている。
思いもよらない安寿の拒絶の姿勢に、息を荒げていた航志朗は我に返って胸の奥をかたく凍らせた。
(俺はなんてことをしてしまったんだ。まだ安寿は身も心も傷ついているのに)
あせった様子で身体を離すと航志朗は小声でつぶやいた。
「……ごめん。おやすみ、安寿」
安寿と航志朗は一つの布団の中で少し離れて目を閉じた。ふたりともなかなか寝つけない。安寿は寝返りをうって航志朗に背中を向けた。その気配に目を開けた航志朗は安寿の背中を見つめた。その苦しげな視線を安寿は痛いほど感じる。
本当は、航志朗の温かい身体を感じながら眠りたい。こんなに近くにいるのだから。でも、それはやがて来る別離の時を思うとできなかった。
(もう、私、少しずつ彼から離れていかなくちゃ。その時が来たら、つらくならないように)
安寿は身を縮めて自分で自分を抱きしめた。航志朗が温めた彼の匂いがする布団の中で、背中に心から愛するひとの存在を感じながら。