今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
外から華鶴の車の音がした。相変わらずの荒々しい運転だ。咲が玄関ドアを開けた。そこには華鶴に支えられた岸の姿があった。今日、無事に岸が退院したのだ。
岸はウエディングドレス姿の安寿を見て微笑んだ。
「安寿さん、おきれいですよ。とても美しい花嫁だ。……航志朗は幸せだな」
安寿は涙をこらえて言った。
「おかえりなさいませ。……宗嗣お父さま」
安寿はそっと岸に身を寄せた。岸は亡き母のベールを被った安寿の頭を優しく胸に引き寄せた。
そのふたりの姿を見た華鶴が気のない様子で言った。
「安寿さん、とてもきれいよ。素敵ね、そのウエディングドレス。どなたがデザインしたものなの? 後でゆっくり聞かせてね。それから、航志朗さん、安寿さんをよろしくお願いね。さて、私は仕事があるから、これでおいとまさせていただくわ」
思わず航志朗は苦笑を浮かべた。一同に背中を向けた華鶴に向かって岸が言った。
「華鶴さん。今度は、いついらしていただけますか」
振り返らずに華鶴が即座に言った。
「今夜の夕食どきには戻るわ。咲さん、よろしくお願いしますね」
咲は下を向いて我慢できずに笑みを浮かべてしまった顔を隠しながら言った。
「はい。かしこまりました、華鶴奥さま」
思わず安寿と航志朗は顔を見合わせた。
カーマインレッドの車に向かって数歩だけ歩いてから急に立ち止まり、何かを言い忘れたかのように振り返った華鶴は早口で安寿に言った。
「安寿さん。赤ちゃんが生まれたら、私のことを、絶対に『おばあさま』なんて呼ばせないでね。お願いよ。私、『お母さま』って呼ばれるのだって、本当に嫌なんだから」
一瞬で頬を赤らめて安寿は応えた。
「はい。わかりました、……華鶴さん」
安寿は航志朗を微笑みながら見上げると、航志朗は耳まで赤くなっていた。
華鶴の車が去った後、岸が安寿に優しいまなざしを注いで言った。
「覚えていますよ、安寿さん。あなたが私を助けてくれましたね。私の手をしっかりと握ってくださって……」
黙ったままで安寿は岸に微笑みかけた。
隣から航志朗が怪訝そうに口をはさんだ。
「安寿、いったいどういうことだ?」
「ないしょです」
「ん? なんだよ、安寿。もう夫の俺に秘密があるのか!」
苦笑いして安寿は肩をすくめた。咲と伊藤が顔を見合わせて笑った。
岸はウエディングドレス姿の安寿を見て微笑んだ。
「安寿さん、おきれいですよ。とても美しい花嫁だ。……航志朗は幸せだな」
安寿は涙をこらえて言った。
「おかえりなさいませ。……宗嗣お父さま」
安寿はそっと岸に身を寄せた。岸は亡き母のベールを被った安寿の頭を優しく胸に引き寄せた。
そのふたりの姿を見た華鶴が気のない様子で言った。
「安寿さん、とてもきれいよ。素敵ね、そのウエディングドレス。どなたがデザインしたものなの? 後でゆっくり聞かせてね。それから、航志朗さん、安寿さんをよろしくお願いね。さて、私は仕事があるから、これでおいとまさせていただくわ」
思わず航志朗は苦笑を浮かべた。一同に背中を向けた華鶴に向かって岸が言った。
「華鶴さん。今度は、いついらしていただけますか」
振り返らずに華鶴が即座に言った。
「今夜の夕食どきには戻るわ。咲さん、よろしくお願いしますね」
咲は下を向いて我慢できずに笑みを浮かべてしまった顔を隠しながら言った。
「はい。かしこまりました、華鶴奥さま」
思わず安寿と航志朗は顔を見合わせた。
カーマインレッドの車に向かって数歩だけ歩いてから急に立ち止まり、何かを言い忘れたかのように振り返った華鶴は早口で安寿に言った。
「安寿さん。赤ちゃんが生まれたら、私のことを、絶対に『おばあさま』なんて呼ばせないでね。お願いよ。私、『お母さま』って呼ばれるのだって、本当に嫌なんだから」
一瞬で頬を赤らめて安寿は応えた。
「はい。わかりました、……華鶴さん」
安寿は航志朗を微笑みながら見上げると、航志朗は耳まで赤くなっていた。
華鶴の車が去った後、岸が安寿に優しいまなざしを注いで言った。
「覚えていますよ、安寿さん。あなたが私を助けてくれましたね。私の手をしっかりと握ってくださって……」
黙ったままで安寿は岸に微笑みかけた。
隣から航志朗が怪訝そうに口をはさんだ。
「安寿、いったいどういうことだ?」
「ないしょです」
「ん? なんだよ、安寿。もう夫の俺に秘密があるのか!」
苦笑いして安寿は肩をすくめた。咲と伊藤が顔を見合わせて笑った。