今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
第5節
また新しい朝が来た。安寿は目を覚ますと、ベッドの上で航志朗が隣でうつぶせになって自分の左手をしっかりと握っていることに気づいた。航志朗はぐっすりと眠っている。安寿は航志朗の方を向いて、目を閉じている航志朗の顔をしばらく見つめていた。そして、はっきりと安寿は自覚してしまった。
(私、彼を、……好きになりはじめている)
安寿は思わず泣きそうになって、右腕で両目をぐっと押さえた。
(……きっといつか、つらい想いをする)
その時、航志朗が大きな身体を伸ばして起き出した。航志朗は安寿に気づいて半分寝ぼけながら話しかけた。
「安寿、……おはよう」
安寿は右腕で顔を隠しながら言った。
「……おはようございます」
その時、安寿の頬から押さえきれなかった涙がしたたり落ちた。
航志朗は安寿が朝から泣いているのに気づいて、大あわてで安寿を全身で抱きしめた。
「どうした、安寿? 怖い夢でも見たのか。飛行機が落ちる夢とか……」
「縁起でもないこと言わないでください!」
航志朗は離れようとする安寿を後ろから両腕で強引に引き寄せてきつく抱きしめた。そして、安寿の髪をなでながら、航志朗は理路整然と語った。
「安寿、飛行機は公共交通機関の中で一番安全な乗り物なんだ。しかるべく統計学的に証明されている。俺は今まで数えきれないほど搭乗したけれど、一度も怖い目に遭ったことはなかったよ。ああ、そういえば、乱気流に突入したことは何回かあったな……」
(もう、そういうことじゃなくて!)
頭にきた安寿は肩に回された航志朗の腕を強くつかんだ。
「とにかく大丈夫だ、安寿」と言って身体を起こすと、無自覚に航志朗は安寿の額に軽くキスした。安寿は真っ赤になって航志朗の腕の中で硬直した。胸の激しい鼓動を感じながら安寿は自分に言い聞かせた。
(もう、私ったら、何をどきどきしているの。彼はずっと海外で暮らしてきたんだから、おでこへのキスなんて朝飯前のあいさつみたいなものでしょ!)
安寿は航志朗を見上げてじっとにらんだ。航志朗は内心で身悶えして思った。
(上目遣いでにらんでくる安寿のしぐさもたまらないな……)
早々に話題をかえて航志朗が言った。
「安寿、今日はどうする? どこか行きたいところはないのか。どこへでも連れて行くよ」
(君と一緒なら、どこへでも行ける……)と航志朗はひそかに思った。
「今日はお仕事をしなくてもいいんですか」と航志朗の腕の中で安寿が尋ねた。航志朗の身体のなんとも言えない匂いに安寿は酔いしれはじめていた。もう少しで航志朗の身体に手を回してしまいそうだ。早くこの腕の中から脱出しなければ大変なことになると安寿は切羽詰まって考えた。
「あの、航志朗さん。私、三枝洋服店の大奥さまにお世話になったお礼がしたいです」
「そうだな。さっそくお礼をしよう」
航志朗は安寿に賛同した。すぐに「じゃあ、今朝は朝食をホテルで食べようか」と言ってベッドから起き上がると、スマートフォンでホテルに電話をかけた。
安寿は航志朗の腕の中からやっと解放されて深くため息をついた。
(それにしても、ホテルで朝食って今から予約できるものなの? ゴールデンウィーク中なのに……)
安寿は首をかしげた。
(私、彼を、……好きになりはじめている)
安寿は思わず泣きそうになって、右腕で両目をぐっと押さえた。
(……きっといつか、つらい想いをする)
その時、航志朗が大きな身体を伸ばして起き出した。航志朗は安寿に気づいて半分寝ぼけながら話しかけた。
「安寿、……おはよう」
安寿は右腕で顔を隠しながら言った。
「……おはようございます」
その時、安寿の頬から押さえきれなかった涙がしたたり落ちた。
航志朗は安寿が朝から泣いているのに気づいて、大あわてで安寿を全身で抱きしめた。
「どうした、安寿? 怖い夢でも見たのか。飛行機が落ちる夢とか……」
「縁起でもないこと言わないでください!」
航志朗は離れようとする安寿を後ろから両腕で強引に引き寄せてきつく抱きしめた。そして、安寿の髪をなでながら、航志朗は理路整然と語った。
「安寿、飛行機は公共交通機関の中で一番安全な乗り物なんだ。しかるべく統計学的に証明されている。俺は今まで数えきれないほど搭乗したけれど、一度も怖い目に遭ったことはなかったよ。ああ、そういえば、乱気流に突入したことは何回かあったな……」
(もう、そういうことじゃなくて!)
頭にきた安寿は肩に回された航志朗の腕を強くつかんだ。
「とにかく大丈夫だ、安寿」と言って身体を起こすと、無自覚に航志朗は安寿の額に軽くキスした。安寿は真っ赤になって航志朗の腕の中で硬直した。胸の激しい鼓動を感じながら安寿は自分に言い聞かせた。
(もう、私ったら、何をどきどきしているの。彼はずっと海外で暮らしてきたんだから、おでこへのキスなんて朝飯前のあいさつみたいなものでしょ!)
安寿は航志朗を見上げてじっとにらんだ。航志朗は内心で身悶えして思った。
(上目遣いでにらんでくる安寿のしぐさもたまらないな……)
早々に話題をかえて航志朗が言った。
「安寿、今日はどうする? どこか行きたいところはないのか。どこへでも連れて行くよ」
(君と一緒なら、どこへでも行ける……)と航志朗はひそかに思った。
「今日はお仕事をしなくてもいいんですか」と航志朗の腕の中で安寿が尋ねた。航志朗の身体のなんとも言えない匂いに安寿は酔いしれはじめていた。もう少しで航志朗の身体に手を回してしまいそうだ。早くこの腕の中から脱出しなければ大変なことになると安寿は切羽詰まって考えた。
「あの、航志朗さん。私、三枝洋服店の大奥さまにお世話になったお礼がしたいです」
「そうだな。さっそくお礼をしよう」
航志朗は安寿に賛同した。すぐに「じゃあ、今朝は朝食をホテルで食べようか」と言ってベッドから起き上がると、スマートフォンでホテルに電話をかけた。
安寿は航志朗の腕の中からやっと解放されて深くため息をついた。
(それにしても、ホテルで朝食って今から予約できるものなの? ゴールデンウィーク中なのに……)
安寿は首をかしげた。