今、君に想いを伝えて、ここで君を抱きしめる
第2節
航志朗の車は岸家の玄関先に急停車した。大音量でブレーキ音が鳴った。その音に驚いた伊藤がすぐに屋敷から飛び出して来た。運転席から降りたびしょ濡れの航志朗は助手席に回り、ぐったりとした安寿のシートベルトを外して、安寿に自分のジャケットを羽織らせた。
「安寿さま、どうなされましたか! 航志朗坊っちゃん、何ごとですか?」
伊藤は真っ青になって取り乱して叫んだ。
「安寿が熱を出しています。すぐに彼女の部屋に連れて行きます」
航志朗がうつむきながら答えた。航志朗は顔を赤くした安寿を支えて屋敷に入った。バスタオルを持って来た咲が、後ろから航志朗の髪を拭きながらついて行った。安寿の部屋に入ると、航志朗は安寿をベッドに座らせた。
「安寿……」
航志朗が安寿の前髪をそっとはらいその額に手を当てると、公園の駐車場にいた時よりも熱いような気がして、航志朗の胸はひどくかき乱された。
安寿が赤い顔で苦しそうに言った。
「航志朗さん、私は大丈夫です。そんなに心配しないでください。それよりも早く着替えてください」
しばらくふたりのやり取りを見守ってから咲が口をはさんだ。
「あとは咲にお任せください。航志朗坊っちゃんは、安寿さまのおっしゃる通りに早く着替えてください」
「いや、僕が安寿のそばについています」
咲は微笑みながらも強い口調で言った。
「だめですよ、航志朗坊っちゃん。これから安寿さまはお着換えされるのですから。はいはい、男性は出て行ってください」と強引に航志朗の背中を押して、咲は航志朗を安寿の部屋の外に出した。
安寿と二人きりになった咲は、安寿の額に手を当ててから安寿の髪をなでて優しい声で言った。
「さあ、安寿さま。ゆっくり休みましょう。咲がついていますから、ご安心してくださいね」
少し涙ぐんで安寿が言った。
「咲さん、ありがとうございます……」
航志朗が車を駐車場に停めようと玄関に戻ると、伊藤が車から航志朗のスーツケースを取り出して運んでいた。
「航志朗坊っちゃん、あとは私に任せて客間でお着換えください。それから、華鶴奥さまからお預かりしたアタッシェケースは客間に置いてあります」
「伊藤さん、ありがとうございます」
一階の奥の客間で着替えた航志朗はサロンのソファに座った。すぐに伊藤が熱いコーヒーを淹れてきた。航志朗は礼を言ってコーヒーを啜った。
「父は?」
「アトリエにいらっしゃいます。安寿さまがこちらにお住まいになってから、宗嗣さまがアトリエにいらっしゃる時間が急に長くなりました」
そこへ咲がサロンにやって来た。航志朗はあわてて立ち上がって大声で尋ねた。
「咲さん、安寿の具合は?」
咲が落ち着いた声で言った。
「先程、安寿さまのお熱を測りましたら、三十八度二分ございました」
「三十八度二分って、高熱じゃないか! 僕が医者に連れて行きます」
「航志朗坊っちゃん、どうぞ落ち着いてください。安寿さまは、今、眠っていらっしゃいますので、とりあえずご様子を見ましょう」
航志朗は心配で仕方がない。頭を抱えて航志朗はソファに座り込んだ。
(俺は何をやっているんだ! 安寿の体調に気がつかないで、彼女を連れ回して)
咲はそんな航志朗を見て、航志朗の肩に手を置いて穏やかな口調で言った。
「航志朗坊っちゃん、大丈夫ですよ。きっと安寿さまは新しい生活にお気を張っていらっしゃったんですよ。航志朗坊っちゃんのお顔を見て安心して、お心がゆるんだんじゃないですか」
「安寿さま、どうなされましたか! 航志朗坊っちゃん、何ごとですか?」
伊藤は真っ青になって取り乱して叫んだ。
「安寿が熱を出しています。すぐに彼女の部屋に連れて行きます」
航志朗がうつむきながら答えた。航志朗は顔を赤くした安寿を支えて屋敷に入った。バスタオルを持って来た咲が、後ろから航志朗の髪を拭きながらついて行った。安寿の部屋に入ると、航志朗は安寿をベッドに座らせた。
「安寿……」
航志朗が安寿の前髪をそっとはらいその額に手を当てると、公園の駐車場にいた時よりも熱いような気がして、航志朗の胸はひどくかき乱された。
安寿が赤い顔で苦しそうに言った。
「航志朗さん、私は大丈夫です。そんなに心配しないでください。それよりも早く着替えてください」
しばらくふたりのやり取りを見守ってから咲が口をはさんだ。
「あとは咲にお任せください。航志朗坊っちゃんは、安寿さまのおっしゃる通りに早く着替えてください」
「いや、僕が安寿のそばについています」
咲は微笑みながらも強い口調で言った。
「だめですよ、航志朗坊っちゃん。これから安寿さまはお着換えされるのですから。はいはい、男性は出て行ってください」と強引に航志朗の背中を押して、咲は航志朗を安寿の部屋の外に出した。
安寿と二人きりになった咲は、安寿の額に手を当ててから安寿の髪をなでて優しい声で言った。
「さあ、安寿さま。ゆっくり休みましょう。咲がついていますから、ご安心してくださいね」
少し涙ぐんで安寿が言った。
「咲さん、ありがとうございます……」
航志朗が車を駐車場に停めようと玄関に戻ると、伊藤が車から航志朗のスーツケースを取り出して運んでいた。
「航志朗坊っちゃん、あとは私に任せて客間でお着換えください。それから、華鶴奥さまからお預かりしたアタッシェケースは客間に置いてあります」
「伊藤さん、ありがとうございます」
一階の奥の客間で着替えた航志朗はサロンのソファに座った。すぐに伊藤が熱いコーヒーを淹れてきた。航志朗は礼を言ってコーヒーを啜った。
「父は?」
「アトリエにいらっしゃいます。安寿さまがこちらにお住まいになってから、宗嗣さまがアトリエにいらっしゃる時間が急に長くなりました」
そこへ咲がサロンにやって来た。航志朗はあわてて立ち上がって大声で尋ねた。
「咲さん、安寿の具合は?」
咲が落ち着いた声で言った。
「先程、安寿さまのお熱を測りましたら、三十八度二分ございました」
「三十八度二分って、高熱じゃないか! 僕が医者に連れて行きます」
「航志朗坊っちゃん、どうぞ落ち着いてください。安寿さまは、今、眠っていらっしゃいますので、とりあえずご様子を見ましょう」
航志朗は心配で仕方がない。頭を抱えて航志朗はソファに座り込んだ。
(俺は何をやっているんだ! 安寿の体調に気がつかないで、彼女を連れ回して)
咲はそんな航志朗を見て、航志朗の肩に手を置いて穏やかな口調で言った。
「航志朗坊っちゃん、大丈夫ですよ。きっと安寿さまは新しい生活にお気を張っていらっしゃったんですよ。航志朗坊っちゃんのお顔を見て安心して、お心がゆるんだんじゃないですか」