黙って一緒に堕ちてろよ

綾瀬さんのやけくそにも見える言葉を受けて、古茶くんはくるりと私のほうに向き直り、つかつかと近寄ってくる。すでに嫌な予感しかしない。


逃げようとしなかったわけではないけれど。……足がすくんで逃げられなかったのが、たぶん、敗因だった。


「岩倉さん!」


「え、なに、怖い怖い怖い」


見たことのないような、爽やかな笑顔を向けられた。純度120%、みたいな。ほんとはそんな奴じゃないってことは十分知ってるんだけれども。


「恋人の証明が必要なんだって、面白いこと言うよね」


背中に左手が回され、顎に右手を添えられる。モーションからして、もうアウトだから。なにするつもりなのかわかっちゃったから、待て待て待て。


「ね、ねぇ、落ち着いて、一旦落ち着こう。冷静になって考え直して」


「俺はいつだって冷静だよ?」


「冷静なのにこの選択をするっていうのは頭が沸いてるって解釈でいいのかなあ!」


ゆっくりと接近する彼。無駄に整ってる顔に改めて苛立ちを覚えた。


古茶くんのペースに乗せられちゃダメだ。そう思うのに、目が回る。


いやいやいや、冷静に考えてありえない。教室のど真ん中だし、私をからかってるだけに決まってる。そうだ、今回もどうせ寸止めで──








────唇に唇が触れた瞬間、思考が停止した。
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