黙って一緒に堕ちてろよ
君とジレンマ
「岩倉さんっ」
ご機嫌なメゾソプラノに振り返り、私は思わず顔をしかめた。
声をかけられることは日常茶飯事なのでさほど驚かない。問題はその声の主だ。
私を呼んだのは、できればあまり関わりたくないタイプの、派手めな女子だった。
しかし、たとえどんな相手でも、差別なんてしたらその途端に私は非難の的だ。それがわかっているから、私は仕方なく、いつものように微笑む。
「……なに?」
『優等生』は誰もに平等であるべき、という共通認識は、一体いつ生まれたのだろう、とたまに疑問に思う。ロボットじゃないのに。
用件はなにかと問われた彼女は、ばちっとウィンクし、ぱんっと両手を合わせた。
「あのね、あたし今日掃除当番なんだけど、用事できちゃって。岩倉さん、代わってくれない?」
……殴りてぇ。
あざとさを演出しているつもりなんだろうけれど、そういう手が効くのって異性限定なんじゃないの、って思う。同性にしても意味ないというか、逆効果にすら思える。
それとも、断りづらい雰囲気を狙ってるとか?あるいは、私なら断らないだろうとたかを括っている……。
私にそんな小細工は通用しないのに。愚かしい。
でも、
「いいよ」
そういえば、と、当てがあることを思い出した私は、首を縦に振った。