黙って一緒に堕ちてろよ
「岩倉さんって真面目だよね〜」
「でも、成績いいのにいばったりしないし、むしろウチらにも優しいよね」
「教え方もわかりやすいし、先生に聞くより絶対いい!」
「聖人じゃん!あたし絶対あんなふうにはなれないわぁ」
ひそひそと、どこからか、そんなうわさ話が聞こえてくる。
このクラスでの私の立ち位置は、『みんなが頼れる優等生』。
「聖人かぁ」
聞こえてきた私への評価を、口で転がして持て余す。
なんとも甘く狡猾な響き。みんなの目には私がそう見えてるのかぁ、って。
本当はそんなんじゃないのになぁ、って。
みんなの望む優等生を演じているんだから、みんなから私が聖人に見えるのは、考えてみれば当たり前だよな、と。妙に納得した。
みんな都合のいい人間は大好きだもんね。わかるよ、私も大好き。
一応、私は好きでこの性格を演じているわけではない。もしそうなら、それこそ嘘偽りなく、私は聖人だったんだろうけれども。
まぁ今はとにかくさ。
存在しない聖人君子に必死にすがってる有象無象が滑稽でたまらないんだ。
「ごめんね、私が『私』じゃなくて」
込み上げる笑いをこらえながら、思ってもいない謝罪の意を唇で唱えた。