君が呼ぶから帰ってきたよ
家に入ってリビングにすすむ。


「変わらないなあ」


そこには私が生きていた頃と同じ光景が広がっていた。


ただ違うのは…


テレビの横のキャビネットに私の高校の入学式の写真が置かれ、その横に赤い花が飾られていた。


お母さん、この花の水を変えながら私のことを思い出してくれてるのかな。


お母さん、1人にしてしまったなぁ。


後悔なんてないけど、しいて言うならお母さんを1人にしてしまったことが心残りだ。


私の家にはお父さんがいない。


小さい頃…私が病気になる前に離婚した。


お母さんはあんまり話したくないみたいだから聞かなかったけど…


あんまりいい人ではなかったのではないかと思っている。


写真、ないしね。


だから私はお父さんの顔を知らない。


お母さん、私を育てるために大変だっただろうなぁ。


親孝行する前に死んじゃって、申し訳ない。


少し熱くなった目頭を抑えてキッチンにあるカレンダーの前に移動する。


お母さんは一日の終わりにその日の日付にバツをする。


つまり、それを見れば今日が何日か知ることができるのだ。


「私が死んでしまってどれくらい日にちたったんだろ…」
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