君が呼ぶから帰ってきたよ
「東堂さん、具合どうですか?」


「だいぶ良くなりましたよ、もう元気です。ありがとうございます。」


「良かったです。昨日救急車で運ばれたって聞いてびっくりしましたよ。ちゃんと休めてますか?」


先生はそう聞きながら、お母さんのベットの隣にある椅子に座る。


「いえ…実はあんまり。美春がいた家にいるのはちょっと辛くて…」


お母さんは悲しそうな顔で言った。


"辛い"なんて、お母さんにそんな思いをさせてしまった事に罪悪感を感じる。


「でもご飯は少しでも食べてください。美春ちゃんも…旦那さんも心配しますよ。」


「そうですね、私は二人の分長生きしないとですね。」


え?旦那さん?


お父さんのこと?


私は初めて聞く父の話題に驚き、頭が真っ白になる。


お母さんを見ると弱々しく微笑み、先生を見ていた。


先生は無理せず何かあれば言ってくださいと言って病室から出て行った。


病室には再び康太と私とお母さんだけになった。


「あの…」


康太が固まっている私の横でお母さんに話しかける。


「美春のお父さんの事?多分、初めて聞いたわよね。美春にも話したことないの。」


そう、今までお母さんはお父さんの話題を避けていた。


だからてっきり私はお父さんは私とお母さんに酷いことをした人なんだと思っていた。


でも今の話からするとそうではないと思う。
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