ハッピーエンダー
出勤してすぐ、朝のうちに、センター長の篠原さんと直属の上司である郷田課長を呼び出し、先に応接室のソファに座り、ふたりを待った。
電子化に貢献したことを称える賞状と、埃の溜まった造花のコチョウランが飾られており、そしてほんのりタバコの匂いがする。この匂いがとても不快だ。
「ごめんね雪永さん、お待たせ」
「いえ」
立ち上がって一礼し、入ってきた篠原さんと郷田課長が対面のソファについてから、座り直す。
「退職の相談……て、さっき軽く聞いたけど」
「はい」
「雪永さんがいてくれてすごく助かっていたから正直驚いているんだけど、理由を教えてもらえる?」
センター長が話を進め、郷田課長は困った顔でこちらに返答を促してくる。あらかじめ考えてきた嘘の理由を淡々と話した。
「家庭の事情で、転居することになりまして」
センター長はこの年の私に両親がいないことに同情しており、「家庭の事情」と話すだけで切なげに眉を垂らす。