ハッピーエンダー

「家庭の事情って?」

尋ねてきたのは郷田課長だった。

「同居している兄の都合です。私だけの給料では都内では暮らせないので、ついていきます」

静かに嘘ばかりを並べ立てる。私はこの会社にまったく未練はない。仕事に穴が空くのは申し訳ないと思っているが、正直、ここから抜け出せる理由を今までずっと探していた。

「そうか……。いろいろ、考えた上で決めたことならしかたないね。転居はいつ?」

「ええと……そうですね、来月、ですかね。でも準備もしたいので、できれば直近で辞めたいのですが。いきなりのご報告になったのでそちらが困らない日付で」

「わかった。うちの人員はもともとプラスだから、それならもう今日から引き継ぎに入って大丈夫だよ。人事部と相談してみるけど、以後は有休消化になると思う」

私は篠原さんの話にうなずき、退職届の手続きや引き継ぎのスケジュールを頭に思い浮かべる。私は本当に、水樹さんに養ってもらうつもりなのだ。不思議なことに、彼の婚約者を目の当たりにしてから、罪悪感というものがまるで湧かない。
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