ハッピーエンダー

一日、引き継ぎと申請に費やし、午後五時ちょうどで帰宅するため荷物をまとめた。明日からは引っ越しの準備という名目で一週間の有休消化をし、最後の手続きのためにその後一日だけ出勤するスケジュール。

オフィスのエレベーターに乗って閉まるボタンを押そうと振り向くと、どこからか現れた郷田課長がするっと乗り込んでくる。先ほど「お先に失礼します」と挨拶したばかりなのに、追いかけてきたのだろうか。私は視線を合わせず、彼が私の後ろの壁にもたれたのを確認してから閉まるボタンを押した。

エレベーターが動きだしわずかな沈黙が流れた後、彼は私に背後から話しかける。

「……驚いたよ。辞めるなんて」

そりゃあ、急に決まったから。

「お世話になりました」

「俺とは? もう会わないつもりなのか」

エレベーターが一階へ到着し、私は早足で通用口から出ようとしたのだが、課長に手首を掴まれた。

「……郷田さん」

「話をしよう。これで終わりなんてないだろ」

彼はわざわざ切なく泣きそうな声を出し、誰もいない印刷室へと私を引っ張っていく。
< 103 / 161 >

この作品をシェア

pagetop