ハッピーエンダー
ひかり(side水樹)
五年前。大学四年、夏。
長い夏休みに入り、昼間の時間がとれるようになった。母親は日が出ているうちは眠っているため、光莉がバイトに出てから家に寄り、起こさず母親の汚れ物を後始末できる。
母親の紐とも網とも言えない変テコな下着を何枚も干し、香水にまみれた部屋のゴミをまとめ、曜日は無視してゴミステーションに出した。
基本的に母親のベッドは下着姿の人間しか寝ないため、タバコの匂いに混じって、人間のありとあらゆる匂いがする。男の体から出たものがそこままになっているときもあり、次に来る前にそれを剥ぎ取って洗剤の匂いに戻さないと、俺に馬乗りになって泣きわめく。
「あ、水樹。おかえりー」
この日もこっそり寄ったつもりが、珍しく母親が起きていた。下着姿で、俺に背を向けて箱形の化粧台で化粧をしている。背中に流れる根本の黒い金髪は、年を重ねるごとに傷み、本人は気づいていないが、もう見るに耐えない。
「……ん。なに、どっか行くの」
俺は買ってきたコンビニの飯を冷蔵庫に詰めながら、やけに機嫌のいい母親に尋ねた。機嫌がいいときは、頭がおかしいときだ。