ハッピーエンダー
暑さと染み付いた香水の匂いで目眩がし、ガラスに映る自分と非常階段の入口が視界の中で揺れた。パチンとなにかが弾けたら、俺はそこを駆け上がっていたと思う。
「水樹さん?」
ついに幻聴かと思いガラスに頭をつけると、俺の背後に、光莉が映っていた。
「……光莉」
「こんなところでどうしたんですか? わっ、顔色悪い。熱中症になっちゃいますよ」
白いTシャツに短いズボンの光莉は、髪をひとつにくくりそれでもなお汗だくになっていた。それがキラキラし、白がめいっぱい反射する。そのせいで、歪んでいた景色が戻り、目が覚めた。
「光莉は、なにしてんの。バイトは」
ガラスから離れて光莉のそばに寄った。淀んだ香水の匂いを移したくなくて距離をとったが、光莉はそれを容易に詰めてくる。
「新人さんのヘルプでシフト入ってたんですけど、ひとりで大丈夫そうなので私はあがってって言われて」
「……そうか」
「水樹さんは? 用事は終わったなら、一緒に帰りましょうか?」
〝帰る〟。そうだ、今は光莉の家に帰っていいんだ。