ハッピーエンダー
「あの、水樹さんは今、いなくて……」
「そりゃ知ってる。きみに用事があって来たんだ、愛人さん」
〝愛人さん〟という呼び方と私を蔑む視線に、慌ただしかったこちらの感情は消え失せる。ああ、なんとなく、なんの用事か予想はつく。
「水樹はあれでも跡継ぎでね。取引先の令嬢を婚約者に迎えている。常に機嫌をとっておけと言い聞かせていたんだが、母親に似て礼節というものを知らないようなんだ」
「は、はあ……?」
「先方から不信感を持たれている。このマンションを訪ねたが追い返され、再度訪ねたときには見間違えでなければ別の女がいた、と」
あの人、私に気づいてたの!?
「幸運にも先方は息子にたいそう惚れているようで、女と切るのなら今回は水に流すと言っているんだ。……まったく、あんな小娘にこの俺が頭を垂れて謝ったんだぞ? どうしてくれる?」
冷静な声なのに鋭い視線を送ってきたかと思えば、彼はバン!と大きな音を立ててテーブルに分厚い封筒を叩きつけ、大きな体でソファに座り、足を組んでふんぞり返った。