ハッピーエンダー
怖い。この人、離婚後にきまぐれに母に会いに来たときの私の父親と似ている。父も「どうしてくれるんだ?」が口癖だった。不倫ごときでバツがついた、子どもたちも貧乏になった、全部お前のせいだ、どうしてくれるんだ?と。そればかり。まったく逆らえなかった母と同じく、私もこの人になにも言い返せなかった。
「封筒を開けろ」
ヨロヨロとテーブルの前に膝をつき、言われた通りに小さな封筒を開いた。お金だ。綺麗に揃ったお札の束が入っている。怖くてテーブルへ手離すとその衝撃で、帯がされた札束が三つ、ボトンと出てきた。
「……こ、これ」
「それを持ってこのマンションから出てっくれ。水樹にほとほと愛想が尽きたと、今ここで、置き手紙を書くんだ」
手帳を破った紙とボールペンが、彼からテーブルへ投げられる。カツンと音がしてペンが弾かれ、私に当たった。それを拾い、ペンを構える。手が震えている。悲しいな。こんなに早く、終わりの日が来るなんて。