ハッピーエンダー

指示通りに【水樹さんには愛想が尽きました。さようなら】という文章を書き、テーブルの上に置いてボールペンで重しをした。

仕事を辞めたのだからこのお金はもらう。そう冷静に考えていた。水樹さんと兄は繋がっているから、一文無しで出ていったと知られれば兄に迷惑をかける。住む場所はしばらくはビジネスホテルでいい。

荷物をまとめる時間を三分くれた。ボストンバッグは持ってきていないため、着替えを紙製のショップバッグに詰め、肩にかける。

「さ、出てってくれ。水樹には二度と近付かないこと」

背中を蹴飛ばされはしないが、私の背後をずっと威圧しながら玄関まで追いやられた。ここを出たら、ひとりで放浪か。扉を開いて出ていく前に、一段高い場所にいる背後の彼は「あ」と声を出す。私は足を止め、ビクビクしながら振り向いた。

「金に困ったら、俺を頼るぶんには構わないよ。……タダでとはいかないが」

ゾッとして血の気が引き、急いで扉を閉めた。
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