ハッピーエンダー
全速力で走った。着替えに歯ブラシ、化粧品がそのまま入ったショップバッグを脇に抱え、ハンドバッグには財布とスマホに、三百万の封筒。これが私の荷物すべてで、今は住所もない。
どこへ行こうか。ここの駅近のホテルには泊まってはいけない。水樹さんから離れなければ。会社の近くのホテルにするか、兄の家の近くにするか。兄の家に行きたい気持ちになったが、それもしてはいけない。それでも兄と連絡が取りたくて、スマホを出した。
画面を点けたが連絡をとる理由がなく、メッセージ画面を出して呆然とした。兄は仕事中にスマホを持ち歩いているから、用事もなく連絡をしてはおそらく邪魔になる。私は狂った頭で考えて、バッグの中のお金を思い出した。
【お兄ちゃん。臨時収入がありました。結婚のお祝いに渡したいです】
画面に映る私の顔は、ニタ、と笑っていた。