ハッピーエンダー

水樹さんに囲われながら私がうつむいていると、腰を打って虫けらのように膝をついていた郷田さんが「う……」とうめき声を上げて起き上がった。彼は水樹さんを睨み、指をさして後退りをする。

「な、なんだお前は! 暴行罪だぞ! こんなことしてタダで済むと思ってるのか!」

水樹さんは聞いたことのないほど凄みのある声で「アァ……?」と唸り、郷田さんの胸ぐらを掴み上げた。私は止める気にならず、黙って見ている。

「ブッ殺してやろうか?」

水樹さん、本気だ。

郷田さんは足をカクカクさせて「な、な、な」と続きの言葉を探していたが、ここで勝手に裁判を始める以上に、今は身の危険を感じたらしい。とはいえ、水樹さんが暴行罪、脅迫罪、そして殺人罪にまで問われては、私が困る。

「……郷田さん。全部なかったことにしてどっか行ってもらえますか。そしたら私も、奥さんになにも言いませんから」

今までしたことのなかった脅しを使い彼を追い詰めると、私がいなければ生きていけないと喚いていたはずの郷田さんは「ヒイッ」と四つん這いで逃げていった。
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