ハッピーエンダー

彼はなぜか、フフッと最初に明るい笑い声を発した。

「わかってる。出ていかせたのは俺の父親だろ? アイツの言うことは気にするな。あのマンションはもうダメだから、ふたりで引っ越そう。な」

え?
てっきり不倫の件を咎めるのかと思っていた彼の第一声はまったくの予想外で、私は呆気にとられ、体が強張った。なにより、彼の顔は笑顔なのだ。

「……無理、ですよ。私たちの関係は、もういろいろと破綻してますから」

「なにわけのわからねぇこと言ってんの。あ、婚約者の女? アイツ邪魔だよな。もうあれと結婚するのやめるから。なにかと父親に言いつけるし、気色悪くて」

「水樹さん。私はそんなことをしてほしいわけじゃなくて……」

「じゃあなんで俺のそばを離れようとするんだよ!? 俺のモンだって言ってんのがわかんねぇのか!」

大きな声を出した彼に、体がビクンと大きく跳ねた。両手を枕の横に押し付けられ、手首をギリギリと絞められる。
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