ハッピーエンダー
「なぁ。俺と一緒に死ぬ?」
卒業間近。テーブルに突っ伏した母親にそう聞いた。この人は俺にとってなんなんだろう。誰かに押し付けて逃げ出そうにも、そんな気にはなれなかった。地獄に落ちて死ねばいいと思うのに、ひとりで逝かせたら可哀想だとも思う。俺を産んだってだけで、ずいぶんと俺の心を縛っている。
俺はたぶん本気だったが、母親はボサボサの髪で首を横に振った。
「……水樹じゃなくて……あの人と死ぬ……」
バカだな。父親はもう迎えに来ないよ。
「俺にしとけば」
キシキシの髪をなでてやった。この人が最後に俺の頭をなでたのはいつだろう。遠い昔だ。光莉はたくさんなでてくれた。今は連絡もとれないし、どこにいるのかもわからない。手離すなら最初から俺を拾わないでほしかった。
死ぬ決心がつかないのは、光莉が生きているから。それと、この人が弱くて、ひとりにできないから。
「……水樹は生きてて……」
母親の掠れた声に、「あと少しね」と笑って答えた。