ハッピーエンダー

エレベーターが上へと動き出したのをランプで確認した水樹さんは、くるりと踵を返し、エントランスへと戻ってくる。

彼はオフィスを数歩出て、私に気づいた。

「光莉?」

「……水樹さん」

両手をポケットに入れて、彼は私の前へスタスタと歩いてくる。少し濡れているが、茶髪はふわふわと揺れていた。

近づいてみて初めて気づいたが、彼のスーツは喪服だった。あの日と同じで、とても素敵だ。

すぐに「なにをしていたんですか」と聞くつもりだったが、彼が喪服だとわかるとなぜか聞けなくなる。胸騒ぎも大きくなるのに、一方でどこか安心もしていた。彼はなにかから、解き放たれたようなすっきりとした表情なのだ。

「行こう、光莉」

手を繋がれた。私も握り返した。行こう。遠くへ。

< 157 / 161 >

この作品をシェア

pagetop