ハッピーエンダー
「……いや、向こうの事情は関係ない。光莉には普通の幸せを手に入れる権利がある。巻き込まれることないだろ」
兄の言葉は、すでに幸せを目前にしている人のものだと思った。私にはどうしたら兄の言う普通の幸せが手に入るのか見当がつかないのに、簡単に手に入ると思っている。そんな私の本心を見抜いているのか、水樹さんは畳み掛ける。
「でも結局、アンタも光莉を見捨てるんだろ。追い出して女を連れ込んで、自分だけ幸せになるんだから」
「違う! 見捨てるわけじゃない!」
「どうかな。兄貴に追い出されて帰る家がない光莉は幸せなのか?」
まずい。私は怒りを露わにする兄に「大丈夫だから」と声をかけ、水樹さんにも「やめてください」と嗜める。
しかし兄は徐々に悩み始め、私に険しい視線を向け始めた。水樹さんの思うつぼだ。彼は、人の心を操るのが上手だから。