ハッピーエンダー
失われたもの
長いパーカーにレギンス姿の私は、ブランド物のスーツを纏った彼と手を繋ぎ、マンションのエレベーターを上がっていった。 水樹さんの手は冷たく、手触りも硬い。その指は時折、私の感触を確かめるようにうごめいた。
連れて来られたのは彼が言っていた通り別世界のような高級マンションだが、水樹さんの隣を歩いていると、ここはただの箱のようだった。
彼はテンキーと指紋認証でドアを開け、私を先に中へ入れる。
「お邪魔します」
か細い声でつぶやいて、広い廊下の先に見えている無機質なリビングをボウッと見つめた。
「おかえり、光莉」
視界が彼の体で遮られる。水樹さんが長い腕を広げて待っていた。五年前と同じく私をたぐり寄せ、こちらの胸の中へ顔を擦り付ける。
「光莉……なでて、頭」
変わらない甘え方。私な吸い寄せられるように艶のある彼の髪に触れ、優しくなでた。水樹さんは目を閉じ、笑みを浮かべながら、大型犬のように私にのしかかる。