ハッピーエンダー
彼は私の隣に座ったかと思うと、こちらへ体を倒してきた。
「わっ、水樹さん」
「いいじゃん」
大きな彼は体を縮め、私の太ももに頭を乗せて横になった。彼の頭の重みが心地よく、つい反射で彼の髪をなでると、彼は気持ち良さそうに目を細めてモゾモゾとこちら側へ寝返りをうつ。
「光莉は保険の仕事してるんだってな」
再会して初めてまともな話題に触れられ、背筋が伸びる。
「契約社員ですけどね。事務作業とか、たまにコールセンターとか……」
大企業の御曹司となった彼に話すには恥ずかしすぎて、ボソボソと途中で説明を切り上げた。大学を出ていたら正社員だったのだろうかと過去には考えたものだが、今はもうなんとも思わない。しかし水樹さんの前では、昔の私のままでいたかった。
「辞めちゃえよ。俺が養ってやるから」
ギュッと奥歯を噛む。だから、それは望んでいないと何度も言っているのに。