ハッピーエンダー
「この部屋に来ることもあるでしょう、婚約者さん」
転がり込んだ女らしく謙虚にするつもりはあった。正妻の畑に踏み込みたくはない。見たくもないし、考えたくもない。
「来ないよ。ここには光莉しか呼ばない」
「そういうわけにいかないんじゃないですか?
そのうちお家に来たがりますよ」
「なんで? 結婚するからってセックスするわけじゃあるまいし」
彼がたまに口にするその単語にはいつもギクリとする。本気でそう思っているのだろうか。ケラケラと薄ら笑いをしている彼をこれ以上否定するのはやめた。しかし、婚約者を呼ぶ気はないと知ってホッとした。
「……そういうことは、もうしてないんですね」
ついでに勇気を出して聞いてみる。
「金に困ってないのにセックスなんかするかよ。気持ち悪い」
「そう、ですよね」
声は掠れ、唇が震えだす。自分を落ち着けるためにパーカーの裾をキュッと握りしめた。
〝気持ち悪い〟。
まるで私が言われている気分だった。目を落とし、下半身を見つめる。細いくせに艶かしく女を主張していて、自分でも吐き気がしそうだ。