ハッピーエンダー
「……あの。お兄ちゃんに電話してきてもいいですか」
兄の顔を思い出すと少し楽になる。私に接してくれる中で唯一、まともな人なのだ。お腹のポケットに両手を突っ込み、中にあるスマホを握った。
「ダメ」
そのお腹をグッと押さえつけ、彼は私をソファから逃がすまいと膝立ちになって四方を塞ぐ。
「帰らないって連絡入れるだけです」
「なら、ここで電話しろ。聞いてるから」
「は、はい」
水樹さんが納得したところで私はすぐに兄に電話をかけた。相変わらず距離が近いまま、私の耳にあるスマホから一緒に声を聞こうとしている。
『んん、光莉……? ……今、どこ?』
私は一瞬、なにも言えなくなった。兄は寝起きの声をしていたのだ。
「あ……えっと、さっきはごめんね。水樹さんちにいる。よくしてもらってるから心配しないで。それだけ言おうと思って」
『……ん、とりあえずわかった。素性はわかってるからなにかあれば俺に報告しろ。あとでちゃんと詳しく話聞かせて。それが条件』
「うん。わかった」