ハッピーエンダー

ゆっくりスマホを下ろし、膝の上で画面を消した。顔を上げると、目の前で、水樹さんが怪しい笑みを浮かべている。サラッと前髪を揺らして「な?」と挑発的に見つめられた。

「俺の言った通りだったろ。兄ちゃんは光莉を見捨てたんだ。俺はわかってた。あの人、最初から恋人と三人で暮らす気なんかないって」

私は呆然と、水樹さんの話を聞いていた。

「俺が光莉を連れ出したとき、心底安心した顔してたぜ。怒りながら口が笑ってた。あの人は光莉に同情してるけど、自分はそうじゃなくてよかったって安心してるだけだ。やっと気づいた?」

彼の言葉が耳にまとわりつき、奥まで入り込んで脳みそに直接ささやかれているみたいに反響する。やがてそれに心が耐えきれず、ポロポロと涙がこぼれだした。水樹さんは指で拭い、優しくうなずく。
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