ハッピーエンダー

エントランスまでかなりの距離があるのに、私は靴を抱きしめたまま音を立てずに固まっていた。

初日からこうなるとは思わなかった。なるべく邪魔をせず、こっそり水樹さんのそばにいたかったのに。

「出なくていいんですか……?」

「出る理由ない」

「面倒なことになりません? 婚約者さん、取引先のご令嬢なんですよね? お仕事に支障が出るのでは……」

「出たら入れなきゃ帰らなくなるだろ。絶対嫌だね」

モニターを睨み付ける水樹さんに見惚れた。卑怯かもしれないけど、私以外の女性にまったく優しくしない彼が好き。それがどんなに歪んだものでも安心する。

しばらくしてモニターは真っ暗になった。どうやらあきらめて帰ったらしい。先ほどの電話も彼女だったのだろう。
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