ハッピーエンダー

水樹さんはビニール袋に脱いだものを入れ、私が着てきたパーカーも掴んでそこに入れる。「それどうするんですか」と尋ねると「受付に渡す」と答え、手を繋いで歩き出した。まさか洗濯はいっさいせず、すべてクリーニングサービスに出しているのだろうか。

その予想は的中し、水樹さんは一階のカウンターで今しがた出勤したコンシェルジュさんに「クリーニング」と短く告げて袋を置いていく。申し訳ないけど、今日はいいか。明日から私がやろう。

手は恋人繋ぎになり、軽やかにエントランスの外へ歩きだす。
しかし、水樹さんの向こうに広がるロビーから「一条さん?」と高い声がした。私は背筋を凍らせながら、手を離して素早くカウンターの影へ隠れる。

水樹さんは私を目で追ったが、ロビーから近づいてくる女性に目を移した。

「……ああ、どうしたの」

カメラに映っていた婚約者だ。実物はお姫様のようでかわいらしい。帰らずに待っていたんだ。……大胆だな。

水樹さんは低い声だが、柔らかく応対している。
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