ハッピーエンダー
「いきなり申し訳ありません。お会いしたくて来てしまいました」
「そう。本当にいきなりだね」
彼女は風呂敷に包まれた荷物を体の前で持っている。ツヤツヤの長い黒髪に、大きな垂れ目。私とは全然違う。私はどちらかと言えば、水樹さん寄りの猫目だ。
「でも悪いけど、これから出掛けるから」
彼はポケットに手を突っ込んだままそう言放った。断ってくれて安心した。このまま部屋へ上がっていってしまったらどうしようかと思った。すると彼女は顔を赤くして、風呂敷を差し出す。
「いいんです。ひと目会えただけで十分なので。あの、これ。お昼にどうかなと思って作ってきたんですけど、お出掛けになるならお夕飯にでも」
あれはお弁当なんだ。相当大きい重箱だ。てっきりワガママなお嬢様なのかと思ったけど、健気な人なのだろう。
こちらからでは水樹さんの表情はわからない。風呂敷を受け取って、どんな顔をしているんだろう。