ハッピーエンダー

彼は隠していた目から手を下ろし、ぐらぐらと危うげに背を正した。初めて正面から、彼の顔を見た。酔い潰れている人とは思えないほど整っている。しかしそれとは逆に、彼は普通に話ができるが、瞳の不安定な揺れ方から相当正気を失っているのだとわかった。

どうしよう、ここで見捨てて部屋には戻れない。かといって警察を呼ぶのも……。だって薬を盛られたのが本当なら、この人は被害者だから。夜とはいえここでは暑くて気持ち悪いだろうし、吐いたら大変。

「タクシー呼びましょうか」

「俺、行くとこない」

「……あなたF大四年の水樹さん、ですよね。私、そこの二年生です。気分がよくなるまで、私の家に来ますか」

私が苦渋の決断をしてそう提案すると、彼の目はカッと開いた。ため息をついたように見えたが勘違いだろうか。

「先に言っておくけど俺、今夜はセックスできないよ」

彼は挑発的にそう言った。サッと頭が冷えて今すぐ立ち去りたかったが、気づいたら言い返していた。
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