ハッピーエンダー

「……なに作ってんの?」

出汁で大根を煮ていると、彼は私の背中にそう尋ねてきた。水樹さんのも作らなきゃならないのかな。いや、そこまでしてあげなくていいだろう。作ってくれる女性もいるんだろうし。

「自分のお弁当です」

「そう。なんの料理」

「大根の煮物です」

ゴトンと大きな音がして、後ろを振り返ると、彼が死んだように倒れていた。ヒヤッとして生姜(しょうが)を刻んでいた包丁を止めたが、彼は仰向けになって蛍光灯に向けて手をかざしており、死んではいないとわかりホッとした。

「へえ。食ったことないな。いい匂いだ」

え? そんなわけない。大根は煮るのが定番でしょう。

「……普段なに食べてるんですか?」

「今日の女はオムライス作ってた。食べる前に逃げて出てきたけど」

そうじゃなくて。

「ご自分のアパートで自炊しないんですか」

「俺、実家暮らしだから」

なに? いろいろおかしい。実家に住んでいるイメージはなかった。そもそも、どうして今日は家に帰れないの?
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