ハッピーエンダー

気になったが、わざわざ聞く意味はないと思い、とりあえず大根の煮物を作り終える。背後は静かになったものの、荒い息はやまない。

私はシンク下の戸棚を漁り、サバの缶詰を見つけた。鍋にお湯を沸かし、サバと味噌を投入する。しばらくしてそれをふたり分に分けて汁椀によそい、折り畳みテーブルの上に運んだ。コン、という音に反応し、横たわって息をしていた水樹さんが目を開ける。

「サバのお味噌汁。飲みますか。二日酔いに効きますけど」

正確には二日酔いではなく現在進行形なんだろうけど。彼は「え?」と意外そうにつぶやいた。

「いいの?」

体を起こし、味噌汁の水面を眺めている。

「オムライス食べ損ねたなら、お腹すいてるかなって。食欲あるならご飯と大根も出しますけど」

「味噌汁だけで大丈夫」

なぜか味噌汁を出しただけなのに彼は〝待て〟をする大型犬のように大人しくなり、姿勢もテーブルの前に〝おすわり〟になる。
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