ハッピーエンダー
男の人なら、そんなはずない、と思った。しかし彼の、経験を積みすぎて大人びてしまった表情の奥の少年のような瞳を見ると、嘘をついているとは思えなかった。
噂では、この人は頭がよくて、特待制度で入学しているから学費がかかっていない。だとすると、ホストを連れ込むお母さんは本当に、水樹さんに一円もお金を使っていないのではないだろうか。彼はこうやって誰かにお金を貢いでもらわないと暮らせない状況なのだ。
私の母とあまりに違いすぎて、心が痛んだ。
「キスしたことある?」
彼は唐突にそう聞いてきた。思いきり首を振った。まさかキスされるのかと身構えたが、彼はピクリとも動かない。
「ないです。キスだけしている人を見たことがありません。その後のことをするから、するんですよね。ならしたくない」
「うん、正しいよ」
彼はカクンと大きくうなずいた。