ハッピーエンダー
「俺もね。粘膜にはできないんだ。吐きそうになる」
リアルな話に、ゴクリと唾を飲んだ。この人がそういうことをしている場面が思い浮かび、嫌悪感が沸いてくる。しかし、粘膜にはキスできないという感覚は、とてもよくわかった。おそらく私も同じだ。
噂だけでは、水樹さんは父と同じ人種の人だと思っていた。そうではないとわかっただけで、今日はよかったのかもしれない。
「ああ、今日は本当に、きみに拾われてよかった。ゆっくり眠れる」
水樹さんはベッドにもたれた。
「ベッドに横になってもいいですよ」
「いや、いい。汚したくない」
ならシャワーも貸すのに。そう思ったが、彼の言う〝汚い〟は身なりのことではない気がした。
「ねえ。名前なんて言うの」
彼はおそらく最後の質問として、私に尋ねた。目蓋が半分落ちていて、今にも眠りに落ちそうだ。
「光莉です。雪永光莉」
「光莉、ね……」
眠ってしまった。彼の名字は、明日聞こう。私は彼の肩を支えてゆっくりとカーペットに倒し、タオルケットをかけた。「おやすみなさい」とつぶやいて、電気を消し、こちらはベッドに横になる。男の人の隣で眠る日が来るとは思わなかった。でも、不思議と安心している。水樹さんはおそらく、私になにもしないから。