ハッピーエンダー
「……んん」
朝になったらしい。カーテンの隙間から光が射し込んでいた。水樹さんはどうなったかな、とぼんやりした視界でカーペットを見下ろしたが、彼の姿がない。あれ、おかしいな。
続いて頭を戻し、天井を向く。
「きゃあっ!」
「おはよう、光莉」
水樹さんが私に覆い被さっていた。私は驚きすぎて、叫んだ後で逃れようと暴れベッドの上部に頭をぶつけた。
「痛っ……」
「大丈夫?」
髪を揺らして尋ねる彼に、「なにやってるんですか」と怒った。
「昨日はごめん。俺、あんまり覚えてないんだけど、きみになにか話したかな」
目の奥がまったく笑っていない、怪しい笑顔だ。彼は私を襲う気はない。話したことを黙っていろ、と脅しているのかもしれない。酔っていろいろ話してしまったのは故意ではないらしいが、記憶がないふりをしているのは嘘だとわかる。だって私の名前を覚えているんだもの。
「私はなにも覚えていませんよ」
まっすぐ見つめ返して、そう答えた。
「……きみは賢いね」
大丈夫。誰にも言うつもりなんてない。彼に安心してもらいたくて、そううなずいた。どちらも二限からの授業。問題なく交代でシャワーを浴び、彼は昨夜と同じ服で先にこのアパートを出ていった。