ハッピーエンダー

なにも、誰にも話す気はない。助けになりたいだなんてのはさらにおこがましい。それでも気になってしかたがなかった。彼は今日も誰かの家に泊まって大嫌いなセックスをするか、そうでなければ実家で母の隣で息を潜めているのかもしれない。

胸の中がモヤモヤとしたまま授業に出ると、その授業だけでなんとなく一緒にいる友達からさっそく彼についての噂話をされた。

「水樹さん、ヤバいっぽいよ」

ドキッとして、いつもは聞き流すその話に顔を上げて聞き入った。

「なんか昨日、同じ四年の女の先輩の家で、暴れて暴言吐いたらしい。DVする人なんかな」

「えーヤバ。格好いいのに、やっぱ怖い人なんだー」

私は眉を寄せた。彼から聞いた話と少し違う。というか、私は意識が混濁した彼をこの目で見た。その女の先輩が薬を盛った話が抜けている。水樹さんが暴言を吐いたのはおそらく真実だと思うけど、被害者はどちらだろう。
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