ハッピーエンダー
でも、誰にも言わないって決めたから、反論はしない。彼もDV云々の話が出回るより、家庭の噂をされるほうが嫌なはずだ。
「先輩、超可哀想でさー。ずっと水樹さんに憧れてたのに、あんな人だと思わなかったって。やっぱ顔がいいからって性格もいいとは限らないよねー」
「……そうだね」
なによ、被害者ヅラしちゃって。泊めてあげるから抱いてくれって言ったくせに、よく憧れてたなんて軽々しく言えるものだ。水樹さんは父とは違うけど、その女の先輩は同じだ。彼女がせっせと抱かれるために準備をする光景を見たら、私だってカーペットに嘔吐したに違いない。ああ、とてもよくわかる。そこで逃げ出した水樹さんの気持ちが。
アルバイトの最中も、昨夜の彼が抱えていた気分の悪さが私に移ったように吐き気が止まらなかった。全部嫌いだ。母をひとりにした父と、父とセックスばかりしていた女性たち、そしてそれと同じことを優々と繰り広げる大学の友人たち。そんな人間には絶対になりたくない。それなのに、そうしなければ暮らせない水樹さんが可哀想だ。