ハッピーエンダー
彼はそれを綺麗に折って、またポケットにしまった。
「なんか知らねぇけど、大学で総スカンくらってさ。ああ、こりゃ光莉が全部喋ったんだろうなってさすがにへこんでたんだけど、違った。昨日の女が喋ってた。あることないこと。俺がDVだとか」
そうでしょうね。〝私は噂を信じていない〟という強い瞳で、うなずいた。
「光莉は本当になにも言わないでいてくれたんだな。うれしかった」
犬のように親しげな視線を送る彼は、初めて柔らかく笑った。冷めた彼の見たことのない表情に、胸が高鳴る。
「な、なにも覚えていないって言ってるじゃないですか」
「うん。ありがとう。ねえ、今夜も泊めて」
彼のお願いに、私はドアを開けて待っていた。おそらく、今夜だけでは終わらない。水樹さんはずっとここに居着くだろう。それでもいい。
彼は自分の心が悲鳴を上げていることに気づいている。私はそれを聞いてあげることくらいはできるはずだ。