ハッピーエンダー
着信
八月の終わり。
壁に背をつけベッドに座る私の膝に、水樹さんは頭を乗せて横になる。毎晩抱き合って寝ているせいか、私たちの距離感は狂い始めていた。
「暑いな」
「水樹さんくっつくからですよ」
彼は、ひとりでは出掛けなくなった。買い物は近所のスーパーに一緒に行くし、たまにふたりで居酒屋に焼き鳥なんかを食べに行く。彼が実家にも帰った回数も、今月は二回ほどだ。
それにともない、着信の回数は増えた。番号に名前を登録しない水樹さんでも、さすがにお母さんの番号は暗記しているらしく、電話がくると顔を歪める。着信音が鳴っている間は彼の手を握る。そうすると、出ずにいられた。
水樹さんを守れている気がする。私が彼をここに繋ぎ止めているだけじゃなくて、ちゃんと必要とされている。ひとりじゃないと思えるだけで、こんなにも安心できる。
「光莉は、恋人いないの?」
「……え」
ふいにそう聞かれて、膝からこちらを見つめる彼に目を落とした。なにをおかしなことを言い出すのだろう。恋人がいるのに水樹さんを泊めるわけないのに。