ハッピーエンダー
手を握って向き合った。彼はポカンと口を開けている。しかししばらくして眉が寄り、顔が歪んでいく。ハッとしたようにすべてのポケットに手を入れ、なにかを探し始めた。
「……スマホ。実家に忘れてきた」
私は目に涙をためながら、なにも言わずにいた。水樹さんはそれだけでなにが起こったかわかったらしく、どんどん瞳が暗くなっていく。
「マジかよ……。なに? あの人、光莉になにか言ったわけ?」
「いいえ。なにを言われたかもう忘れました。スマホも、取りに行かなくていいです。水樹さんの番号は着信拒否にしておきますから。新しいの買いましょう」
涙声になって訴える。私はまったく気にしていない。むしろ水樹さんが心配でたまらないのだ。
「もういい……。俺、ここにはいられない」
「水樹さんっ」
百九十センチの長身が立ち上がり、ドタドタと玄関へ向かう。私は後ろから抱きついてそれを必死で引き留めた。
「……離して、光莉」
「いてください。いてほしいんです。水樹さんはもう、お母さんのところへ行かなくていい。私も一緒に見捨てます。大丈夫です。ここにいましょう」