ハッピーエンダー
今度は彼の背中が震えていた。後ろから額をつけて、手を握る。
「水樹さん……お願い……」
水樹さんをひとりにしたくない。束縛から逃れて、私のところに来てほしい。お母さんには渡したくない。もう誰にも、彼を傷つけてほしくない。
「……光莉」
彼は震えたまま、ギュッと手を握り返した。泣いているのだろう。やっと私の前で泣いてくれて、胸がいっぱいになった。
手の力を緩められ、私は一度体を離した。ふらりとこちらを振り向いた水樹さんは、宝石のような片方の瞳から一筋、綺麗な涙を流していた。
「……突き放せよ。じゃなきゃいつか後悔する。俺は、光莉からもうなにも奪いたくない。俺を見捨ててよ」
首を横に振り、手繰り寄せて、かがんだ彼の頭を胸の中にしっかりと抱いた。髪をなでて、涙がひくのをじっと待つ。
「大丈夫。私はなにも奪われていません」
彼の腕はゆっくりと、私の背に回された。
私は水樹さんを見捨てたりしない。心の中で、そう誓った。